早稲田大学21世紀日本構想研究所主催

国際シンポジウム「東アジア共同体の可能性」で発言

 仙谷由人は、3月31日に早稲田大学で開かれたシンポジウムで、パネリストとして、以下の報告をしました。

 このシンポジウムのパネリストは下記のメンバーです。

問題提起 高野孟(株)インサイダー代表取締役社長

講演者 金 泳鎬  高麗大学教授  元産業資源大臣(韓国)

  馮 昭奎  中国全国日本経済学会副会長  中国社会科学院研究員

    高良倉吉  琉球大学法文学部教授

    仙谷由人      

 

 

 

 

 東アジアの安全保障とFTA

              仙谷 由人

 

 高野孟さんからこのシンポジウムについて、協力の依頼があり、大変なテーマでしたが、安請け合いしてしまいました。金先生や馮先生にご多忙の中おいでいただきました。また高良先生とは私は面識が無かったのですが、そしていかに日頃の本当の意味での勉強が不足だったのか私自身悟らされたわけですが、若井康彦さん(昨年11月9日投票の衆議院議員選挙で当選した民主党議員)が「『東アジア共同体の可能性』というテーマで議論をするなら沖縄の視点というか、沖縄から見た『東アジア』についてもお話をいただければ重層的・多角的になる」と、かねがね付き合いのあった沖縄の高良さんにお願いしてくれました。高良先生にも琉球大のお仕事でお忙しい中お時間を割いていただきました。私自身国会議員として、4時間のシンポジウムにお付き合いするのは辛いものがあるのですが今日は中身の濃い議論を聞かせていただき、久しぶりに知的な刺激を受けました。そこで、3人の先生の話や高野孟さんの問題提起を伺って、私なりに、若干の資料をもとにお話します。

 

 EU統合の憲法草案に見る主権国家の変容とアジア

 私自身の表層的なマルクス主義理解なのかもしれませんが、どうしても学生時代からの「存在が意識を規定する」、「下部構造が上部構造を規定する」という仮説だけは妥当するように思っています。つまり生産様式や経済の水準や段階が政治制度や上部構造といわれる法律、仕組み、人間の考え方を規定する。そうだとすると、今のヨーロッパを見てもそうですが、今アジアで起こっている経済の相互依存や相互の交流、拡大、進展、進化は必ず政治制度上の大きな変化をもたらす。この変化は、一国単位の今までの「国のかたち」、政治の制度や一人一人の国民の意識を変えざるを得ないし、変えつつある。明治維新のときは、坂本竜馬や長州藩の藩士を助けた白石何某が出てくる、その人たちの意識は遥かに藩を超えていたし、そこにさらに脱藩した浪士、青年が出てきた。

 当時の仕組みでは経済的にもこれ以上の発展は不可能だ、あるいは日本人が豊かになれない、あるいは黒船来航で日本の統一、民族の独立を守れない、当時すでにアヘン戦争などのニュースも入っていたのでしょう、そういうエネルギーが、藩という境界を吹っ飛ばしてしまった。それが明治維新だとおおざっぱに考えています。

 そして今、EU各国で『EU憲法』を議論・検討している。『EU憲法草案』ができている。まだ成案の調印に至ってはいないが、昨年12月には本格的議論が開始された。

 先般、私が会長代理を務めている衆議院の憲法調査会に、ヨーロッパ連合(EU)から日本に派遣されているツェプター大使が来て下さって、同大使から報告して貰いました。

 翻訳を憲法調査会事務局が東大の中村民雄先生にしてもらいました。本日の資料集の最後に資料として添付した一枚がそのEU憲法草案の一部です。

 ヨーロッパは、なぜ石炭鉄鋼共同体から始まって、営々とこんなことをやってきたのか、それはただ一点『戦争の無いヨーロッパを作る』のが出発点であったし現在もそうでしょう。同大使がそういっていますから、本当でしょう。国連憲章の冒頭にも書いてある、「第一次世界大戦、第二次世界大戦という二度にわたる悲惨な人類の経験をいかにして克服するか。」

 ヨーロッパの中で、国境をはさんでにらみあって、気がついたら一夜にして国境線がかわり学校で学ぶ国語が変わったという、こういう戦争をどうやってやめるか、なんとかしてやめられないか、これがヨーロッパ連合のそもそもの発想であった。今年5月1日からは構成国が25カ国になるということです。

 EU憲法で冒頭に書かれているのは、自由通行です。つまりEU市民の自由通行を保障するというのが一番最初に書いてある、そうすると、これはほとんど国境が無いということと同じです。

 少なくとも国境線で軍隊が対峙して、いつ国境を犯されるかに備えるというようなことは25カ国に関しては必要ないという状況を作りかけているというのが今のEUです。たとえば「尖閣列島を守らねば」という話はなくてよい、竹島問題もお互いにアジア市民という名目で行き交えば良いじゃないかというのが、ヨーロッパで起こりつつある。ただし・外側に対しては、ちゃんと集団的な安全保障の仕組みを作っておこうというのが1−40に書いてある。また1の2行目に「行動能力を提供する」という言葉があります。7項目の方にも5行目に「国連憲章51条にしたがって提供する」とある。要するに彼らの言い方によれば、自衛権、国家主権の一部としての防衛とか安全保障の主権を、その一部もしくは相当部分を「譲渡する」という言葉が憲法の中に出てくる。EU・国際連合が決めたときは、その主権を委譲するという表現で、具体的には「行動能力を提供する」ということが書いてある。現に25カ国は外の敵に対しては対処するということがほぼ決まり実効的に動き始めている。これがある種の地域的な安全保障の一つの姿かと私は思っている。

 

密接な日、中、韓の経済交流−アジア共同体の現実性

 先ほど馮先生がおっしゃった、マフィア、海賊、麻薬等ということに対処するためには、ヨーロッパで言えば25カ国共同のもしくは一元的にEUの警察機能をいかに充実強化するかということになる。強制力はこういう部面で必要となる。そういう構想と機構が東アジアでどうやれば作られるか。まだまだ中国の政治体制が我々のいう民主主義の体制でないということがあって、非常に困難な果てしない先の話と思う人がいるかもしれないが、私は意外に早く急激に進むのではないかという直感があります。

 それは、経済の中で、貿易だけでなくて、経済的な相互の交流浸透があまりに早く、あまりに早く深くなりつつあるからです。2001年の年末に私は上海と台北に行きました。その際、上海の国際問題研究所の所長にお会いしました。

 「仙谷さん、いまや台湾との関係は3つの5(ファイブ)だ。50万人の台湾人が上海中心のビジネスで働いています。5万社の会社がある、500億ドルの台湾資本が入ってきている。この3つの5(ファイブ)があるので、30年くらいの単位で考えると、中台問題なんか簡単に解決していますよ。」こう上海の人は言っている。

 ところが、それどころか、先般も新聞を見ると、台湾のビジネスマンは中国本土にすでに100万人いる、この人たちを今度の台湾の総統選挙で台湾へ帰して投票させようという運動があると報道があった。いまやたった2年しかたっていないのに、50万人が100万人のビジネスマンになっている。

 あるいは、去年の日本の第3四半期、ここから急激に日本の製造業大企業の景気、経済がよくなってきている。これは実感だけでなく、数字がよくなっている。昨年夏頃まで、もう整理をしなければいけないといわれていた鉄鋼の新日鉄と川崎製鉄の外の会社、建設機械の会社が、急激に去年から景気がよくなっている。これは数字の面から見ると、明らかに中国への輸出で息を吹き返している。製造業大企業の今年の予測も去年も、国内の売り上げはマイナスなのに、ところが輸出だけが伸びている。それも中国への輸出だけが大幅に伸びているというのが今の高成長、日本の製造業大企業の好成績を支えている。  

 ちなみに、「図5:北東アジアの貿易構造(2001年)」を見ると、いかに中国の存在が大きくなっているかがわかる。この2001年の数字をじっと見るだけで中国の存在が急激に大きくなってきたことがわかるし、北東アジアだけでこのスケールで日々貿易が展開されている。

 「図表13 米国と中国の輸入増加額」を見ると、なおさら大変なことがわかる。2002年から2003年にかけて、中国は輸入だけでも、1170億ドルも増やしてしまった。うち、石油以外が1090億ドル増えてしまった。アメリカが1年間で増やしたのが、670億ドル、あるいは石油以外なら580億ドルという単位ですから、中国の急激な伸び方がどういう意味を持っているかが容易に想像できる。

 その下「図14 アジアの輸出」では、アジアから対日、対米の輸出の2002年、2003年が示してあります。日本がアメリカに対して昨年前年比輸出59.5%減少、中国は20.0%のプラス。これを見ると、日本がすでに中国なしには生きていけない体質になっている。中国も日本なしには生きていけない。韓国もしかり、韓国・中国の関係、韓国・日本の関係もしかり、急激にそうなっている。

 そのことは、ビジネスの世界で「この国境があるのは面倒くさいな」と。あるいはビジネスにともなう労働市場の関係で面倒くさいというにとどまらず、たぶん今もめている靖国問題やその他の整理されていない問題がどうなっていくか。私は、日本政府も中国政府も韓国政府も急激に世代交代しながら、極端なナショナリズムというか、アロガントな発想を脱出することができて、日本人でありながらアジア人であるという発想のもとにものごとを考えることができる若者がふえて、リーダーシップをいろんな場面で取ることができるようになると確信しているし、そうなった段階では東アジア共同体は意外に早く進むと考えている。

 

EU統合に学び、東アジアの共同体づくりへ

 

 そして、こういう言い方があります。日本には日本独自の歴史や文化や伝統があり、そのことの価値をもっと大事にしなければいけないのだと。それはそのとおりです。しかし、にもかかわらず、我々が政治の制度や法律の制度とか、憲法におきかえると、そうはいっても近代国家、近代市民革命がもたらした民主主義、人権、国民主権、平和といったものは、アメリカ的だろうが、ヨーロッパ的だろうが、この価値観をそうそう簡単に他の価値観に置き換えるわけにはいかないということも間違いないことであるでしょう。したがって、こういう制度作りにおいて、欧州連合がこの間粘り強く、挫折を繰り返しながら積み重ねてきたこのやり方やここで生み出した制度をそうそう簡単に「我々は別のものを作る」などとがんばる必要はなく、大いに「真似」をしてよいと思っています。

 問題は高野さんから提起があったように、アメリカの単独行動主義、この病気がどこで治るのか、このやり方が新しいアメリカの帝国路線として、ブッシュから他の大統領に変わろうと完璧に位置づけられているのか、いわば彼らの「アジアガバナンス」の手法と思っている、アメリカ対フィリピン、アメリカ対韓国、アメリカ対日本というような、ハブとスポークの関係のこのガバナンスのやり方をアメリカが脱却できるのか、あるいはアジアの方から脱却させることができるかが、大問題です。

 アメリカは一方でイラクを単独行動主義的に先制攻撃してしまった。しかし、東アジアにおいては6カ国協議という形で、多国間の協議で北朝鮮の核開発をやめさせる、裏側から言えば北朝鮮を当面の間崩壊をさせない、つまり同国をソフトランディングさせて改革・開放に持ち込むという方向で5ヶ国ではそれ程異論はない、そういう東アジアの平和と安定の実体づくりに向け、6カ国協議という方式を使うというとこところまできていると考えていいのではないか。昨年9月私が憲法調査会でアメリカに行ったとき、国防副長官アーミテージ氏に会いました。そのとき第1回目の6カ国協議の会議が終わったときだったわけですが、彼はこう言った。「中国が成熟してきた。同じテーブルで話ができるようになった。6カ国協議では中国の貢献は多大だ。」 アーミテージも、モリアティ米大統領補佐官も同じことを言っていて、そこは掛け値の無い話だった。

 他方、馮先生、凌先生に伺いたいところですが、中国の『新思考外交、新思考』という政策、つまり多国間主義を中国はあらゆる外交とりわけ東アジアについてのアプローチの基調として政策展開をするということなのかどうか、ここがやはり一番大きいポイントだと思っています。

 アメリカが多国間主義を部分的にせよ、東アジアについてだけでも転換していくのか、中国が新思考外交のもとで、多国間主義の外交政策、近隣政策を展開できるのかに注目しています。

 そして日本も早くひきこもり症候群のような政策展開を抜け出て、21世紀はこれだけの経済交流の実態が、相互交流が進んでいるのだから、これがより円滑に進むように、これにふさわしい上部構造を、ガバナンスの構想をつくり、行動するとことが必要です。

 そのために、韓国とも中国とも大いにその種の協議をやっていかなければならない。今の時代でしたら、それほど大きい話ではないように思いますが、そういう構想のもとに日本のアジア外交、アジア政策が進められなければならない。

 先ほど「脱亜入米」、「脱亜入欧」の話が出されていたが、まさにこれからの時代は「入亜入米」をどうやって日本ができるか、そしてそのことは明治維新以後初めての「入亜」です。過去、政策的に福田ドクトリンもあったが、どうもお金はODAはじめ大量のカネを使ったが、入亜政策が本格的に展開されるとするなら、これからが金先生がおっしゃったように日本にとって初めてのことかもしれません。そのことは意識的に展開されるべきです。そのことなしには、日本は21世紀、まったく孤立し、気が付いてみたら国際社会の中でひきこもりの少年たちのようになっているということになる。私はそれを恐れているのですが、そうならない可能性、希望を若い皆さんを見て確信しました。