がん治療薬 患者の視点で

12月10日付け 読売新聞「論点」より

仙谷由人

 

総選挙の熱気がさめやらぬ十一月十八日、厚生労働省が、未承認の併用抗がん剤に保険適用を拡大するという方針を表明したと聞き、あっと驚いた。かつて私が国会質問したことへの“回答”でもあったからだ。

世界の標準治療ではその治療効果が認められているのに、日本では薬として承認されていないものや医療保険では使用できない薬、特定の疾患には使用できても他の部位のがんには使えない、といった抗がん剤が多い。一つでも未承認薬を使うと治療費は全額保険適用からはずされるのが現行制度である。

がん患者団体は、ここ数年厚生労働省に対して、世界標準治療薬を治療に使えるよう一括承認すること、保険で使えない薬を使った場合でも薬剤費だけ患者が負担する(この部分だけの混合診療)ことで治療が行えるよう制度改正をすべきだと主張してきた。放置すれば死に至る病に侵された患者や家族にとって、世界的に効果が確認されている化学療法?抗がん剤の承認は喫緊の課題である。福島雅典京都大学教授が主張されるように、世界標準治療を享受できない日本の患者の悲劇に、目をむけなければならない。

私は今年七月十六日衆院厚生労働委員会で、あるがんについて世界標準治療とされ、日本でも専門医にとっては常識的となっている治療を施した大学病院が、その薬剤費にとどまらず治療費全額を「保険」に返還するよう要求されたケースを取り上げた。そして、患者団体の前述の切実な命をかけた要求に応えるべきだ、さらには世界標準治療や日本の専門医が作成した「抗がん剤適正使用ガイドライン」に記載された薬のうち、現実に使用不能となっている薬については一括して承認し、かつ保険適応すべきだと主張した。そして八月にはこの質問を整理して質問主意書を提出した。

これに対し、厚労省は、「『世界標準の治療薬』という考え方は確立されていない」「海外で承認され、使用されている医薬品であっても、製造承認を行うにはわが国で使用する際の有効性、安全性等を個別に確認する必要があり、個々の医薬品の特性を考慮せずに一律に製造承認を行うことは適当でない」と答弁していた。

しかしさすがに患者団体のもっともな要望を無視できないと考えたのか、あまりにも先進各国の化学療法?抗がん剤治療の進展で格差がますます開くことに焦りを覚えたのか、ジワッと微調整を図ったというのが、「未承認の併用抗がん剤保険適用」のための「抗がん併用療法検討委員会の設置」なのである。

私の質問に正面から答えるものでないとしても、それがささやかではあれ半歩前進である限り、これを否定しようとは思わない。

厚労省が「第三次対がん十か年総合戦略」を二〇〇四年四月から実施しようとするなら、受け身ではなく能動的・積極的に、あくまでも患者にとって適切な治療を受け得るよう制度を作り、患者が選択しうる治療法を一つでも多く用意するため職責を果たして欲しいのである。

化学療法?抗がん剤治療の最大のネックは、イレッサ騒動でも露呈したように抗がん剤を適切に使用できる専門医があまりにも少ない(全国で百人程度とも言われている)ことだ。ようやく日本臨床腫瘍学会が立ち上がったのは昨年三月である。

このように見てくると「第三次十か年戦略」で最優先に行うべきことは、もはや明白だ。アメリカ並みとはいわないまでも、今日本にいる専門医を総結集し、標準治療薬の早期承認と専門医の養成のために、ヒトと資金を集中することである。

そうでなければ厚生労働省が唱道する「EBM(根拠に基づく医療)」や「QOL(クオリティーオブライフ=生活の質)」は単なるお題目に堕してしまう。