1992年03月12日 予算委員会第二分科会

○志賀主査 これにて玉城栄一君の質疑は終了しました。

 次に、仙谷由人君。

○仙谷分科員 日本社会党・護憲共同の仙谷でございます。

 外務省その他の官署に対しまして、国際的な人権の問題を質問させていただきたいと存じます。

 来年は、世界人権宣言から四十五年が経過するいわば、ある意味では記念の年になるわけであります。世界人権会議が開かれる、後でまた人権会議のことについてはお伺いをいたしますが、人権会議が開かれるという年でもございます。そして、冷戦が終結したという。現時点で、御承知のように、南北問題と言われておる問題が、より解決すべき、そして困難な課題として私どもの前に提起をされているのではないだろうかと考えております。

 ソ連邦の崩壊を目の当たりに見まして、ユーゴスラビア等々の状況を見ましても、あるいは中近東、南西アジアという地域を見ましても、これからは民族的あないは宗教的、人種の問題に基づく紛争や人権の抑圧というふうなことが多々発生するのではないかという危惧も持っておるわけでございます。一方で経済が非常な国際化といいますか相互依存、相互協調の関係になってまいりまして、御承知のように人、物、情報が想像を絶するような勢いと量で行き交うという状況にもあるわけでございます。当然のことながらそういう状況の中で人権もボーダーレスになってくる。あるいは国際的な形あるいは国際的な中で人権が保障されなければならないという要請が我々の前に強く出されておるということをつくづく考えているわけでございます。

 国連に国連人権センターという機関もございます。そして国連は人権に関する諸条約というものを相当採択をいたしまして各国にその批准を迫っているといいますか、批准を求めているというふうに考えてもいいのではないかなと思っておるわけでございます。日本が人権大国とは言われない、人権の面ではややおくれておるんではないだろうかということで、国連の人権委員会の中で外務省の担当者の方が人権規約に基づいて報告をしておるわけでございますが、その報告がどうも国内状況を報告しなければいけないということで外務省の方はむしろつらい立場にあるのではないか。ある意味で私は同情をしながら、やはり日本国内の人権状況をもっと人権が尊重されるような状態に持っていかなければならない、ここのところが我々政治家あるいは外務大臣を含めた義務ではなかろうかと思っておるわけでございます。

 後で詳しくお伺いするんですが、国内的な人権尊重の確立といいますかその問題は、当然のことながら、いまだに日本に残る部落差別の問題、そして今後ますます増加するであろう在日外国人の問題、そうして在日外国人の中でも、戦後の処理を私どもが十分にできなかったためにいまだに背負わなければならない戦後責任の問題というふうなこともあるのではないかと考えておるわけであります。そしてまた、この国際的な人権保障といいますか国際人権の尊重の課題という観点からいいますと、日本がこの点に関して、とりわけ国連への協力、これは金と人ということになろうかと思いますが、国連への協力ということが必要になると思いますし、諸々の人権条約への加入といいますか締結ということがいまだに大きな課題としてあるんではないだろうか、そういうことを考えるわけでございます。

 そこで、まずお伺いをしたいと考えますのは人種差別撤廃条約についてでございます。これは大臣にお答えをいただきたいわけですが、御承知のように一九六五年に国連総会で採択をされた人種差別撤廃条約であります。この問題につきましては、ちょっと調べてみますと、多分間違いないと思うんですが、一九七〇年に市川房枝さんが質問をしまして、そして当時の政府の方から愛知外務大臣だというふうに私は聞いておるのですが、「国内法改正の作業も現在進めている段階でございますが、この条約につきましてはできるだけ早く成案を得たいと考えております。」という答弁があった。それで、その後予算委員会、外務委員会等々で先輩議員が質問をされる、八七年の二月には土井たか子委員長が質問をする、八七年の三月には久保田真苗議員が参議院で質問をするというようなことがあるわけです。ことしでついに二十一年、二十二年人種差別撤廃条約が検討され続けたという状況があるわけでございます。外務大臣、この問題につきまして、いかがお考えになりますでしょうか、御所見をいただきたいと存じます。

○渡辺(美)国務大臣 二十年間も未締結のまま放置されているということは、素人的に考えれば、これはどういうわけなのだろうか、世界のうちで百三十カ国も加盟をしておって、国連中心主義などと日本政府は言ってきておるわけですから、当然これは加盟されるべきものだというふうに考える、普通そうなりがちだと私は思います。だけれども、なぜそれが署名されないのかというと、聞けば聞くほどまた別なもっともな理由もあって、日本の憲法が余りにも個人の人権を尊重し過ぎる。し過ぎると言ってはこれはまた語弊があるのかな、非常に個人の人権を大切にする、法の前に平等とな言論の自由とか、そういうことを非常に厳格にとらえているからいろいろ問題が出てくるのかな。

 正直なところ、私は大臣になって日もないし、ここまで勉強している暇がなかった。だから、国会でも済んだら私は法務省と一遍よく話をしてみて、実害のないような形で何かできないものかな、どちらかといえば私は締結する方が四分六でいいのじゃないかという感じなんですよ。なんだけれども、まだまだ百点までいっていないわけだから、そこでよく勉強してみようという感じにここ二、三日なってきたというのは事実であります。

○仙谷分科員 難しい問題というのが今までの国会の議論の中でも取り上げられていることはいる

のでありまして、表現の自由との関係で特にそういう議論がなされておるわけでございますが、私はこれは言い逃れだと思います。二十一年間も二十二年間も放置したまま表現の自由が大切だ、そんな議論は成り立たない、到底成り立たないのではないか。それならば、この人種差別撤廃条約は表現の自由を抑圧するものであるから我が国は締結できないということを明らかに、国際的に、はっきり宣言すべきだと思うのですよ。そんなことをしたら国際的に笑い物になるということを考えて一日延ばしに延ばしてきた、二十二年延ばしてきたというのが実態であろうと思っております。

 といいますのは、議論になっております扇動概念ですね、人種的差別の扇動、人種もしくは民族的出身を異にする人々の集団に対する暴力行為またはこれらの行為の扇動というふうなものが抽象的で、表現の自由を侵す可能性があるとおっしゃるわけですが、日本の他の法律では、あおり、唆し、扇動というふうな、憲法上表現の自由に抵触する可能性のあるものが今相当数、現行法体系の中にもあるのですね。

 それで私は、今の渡辺外務大臣の答弁じゃなくて、今までの政府答弁を拝見しますと、やはりこれは言い逃れだ。つまり、プライオリティーの問題があって、後で申し上げますけれども、例えばわいせつ文書に対する通信の問題でも、この種の話については堂々と電波法で違反、禁止という格好になっているわけですね。ところが、差別的扇動についてはその種の問題がない。表現の自由と抵触するというふうなことを口実にして条約を締結しない、国内法を整備しない。私はこの問題は外務省であるよりもむしろ法務省とか警察とか、そちらの方に原因があるのではないか。ここは外務大臣が大物で実力者のうちに国内的な体制をリーダーシップをとって整えるということ以外に、この人種差別撤廃条約を締結する、そのことによって日本が全世界に人権を尊重する国であるということを明らかにすることはできないのではないか。

 だから、この問題で私は外務省だけを責めたり、追求したりするつもりは全くない。これはせんだっての外国人登録法の指紋押捺の問題でも同じですよ。外務省がリードしても足を引っ張る役所がいっぱいある。ここが、日本の縦割り構造なのか何かわかりませんけれども、大問題だ。それで渡辺外務大臣に、副総理という立場からぜひリーダーシップを持ってこの人種差別撤廃条約にもお取り組みをいただきたい、こういうことを申し上げておるわけでございます。どうか決意のほどをもう一度お聞かせ願いたいと存じます。

○渡辺(美)国務大臣 先ほどお答えしたとおりで、私がきょうあすにどうこうということは申し上げられませんが、国会でも終わったらひとつ真剣によく勉強をして、その次の国会等で結論が出るようにやってみたいと思います。

○仙谷分科員 日本はいわゆる国際人権規約の中の自由権規約というものについては締結をしておるわけでございます。私どもがこの自由権規約について申し上げたいことは、実は自由権規約について国連の人権委員会に報告をすることになっておるのですね。その報告書がことしも出されております。この報告書の作成のいきさつといいますか、どういう国内諸官署の討議といいますか、打ち合わせでできるのか。とりわけ私がちょうだいしました報告書でいきますと、最後から三枚目、「同和問題の現状と課題」というのがございますが、この「同和問題の現状と課題」というところで書かれておることはどういう経緯でこの種の文書が作成されておるのか、お聞かせをいただきたいと思います。

○丹波政府委員 この報告書の作成の過程に当たりまして、大変広い関係各省庁との協議を経て毎回こういう報告書をつくり、報告をしておるということでございます。

○仙谷分科員 この報告書作成については、いわゆるNGOといいますか、その各分野についてのいろいろな運動を進めている、あるいはそういう課題に取り組んでいる諸団体との打ち合わせということは余りなさってないようですね。例えば、今私が申し上げた二十六条関係の「同和問題の現状と課題」というようなところは多分総務庁と協議をなさっておるのじゃないかと推測をしておるわけですが、これからは、どうでしょう、諸外国の中でも運動を進めておる、あるいは取り組んでいるボランティア団体とか諸団体、日本でいえば部落解放に取り組んでいる団体というのはあるわけでございますので、こういうところとの協議を、報告書を作成する前には協議をするというおつもりはないでしょうか。あるいはそういうふうにしていただきたいという気持ちを込めてお願いをするわけですが、いかがでございますか。

○丹波政府委員 この報告書につきましては、実は先生、ことし一つ新しい点は、従来は、報告書を人権委員会に出しまして人権委員会がその審査をして初めて公表するということだったのです。ところが、国会の先生方、それからNGOの方々からできるだけ早く公表してほしいという御意見、御要望がございましたので、今回のものにつきましては、国連に出すとほとんど同時に公表したということで、私たちはそれなりの努力はしたつもりでございます。今先生の御指摘の点につきましても、大変非公式な形ではございますけれども作成の過程で学者の先生の意見をお聞きしたりいろいろなことはしておりますが、今の先生の御意見は大変貴重だと思いますので、今後できるだけ広い形で意見を吸い上げていくといいますか、そういう努力は拡大をしていきたいというふうに思っております。

 

○仙谷分科員 私も読ませていただきまして、過去二回の報告書、あるいは報告よりもやや実態にこの部分も近くなっている、つまり、「同和問題の現状と課題」というのは実態に近くなっているという評価はいたしますが、にもかかわらず、ことしの同対審の意見具申が出たわけでありますが、その前提となっていますいわゆる同和対策事業といいますか地域改善対策事業の未実施地域というふうな問題が全然書かれてないとか、あるいは地域の実態についてもう少し具体的に指摘をするべきではなかろうか。つまり、自由権規約の二十六条は、「いかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」効果的な保護を保障できているのかどうなのかという観点からの、例えば地域の今の住環境、あるいは生活保護の受給率、あるいは学歴構成の問題、あるいは識字能力の問題、就業する業務についての問題、あるいは産業の問題というふうな指摘が国際的にもきちっと報告をされなければならないのではないだろうか、そんなことを指摘しておきたいというふうに考えます。

 それから、これは在日韓国人、朝鮮人にも共通する部分がある問題でございますが、就職差別を禁止するという法律が日本にないのですね。先ほどは差別扇動の問題というのが出たわけでございますが、外務大臣、これもILO百十一号条約というのがございまして、雇用上の就職差別というものを禁止している、こういうILOの条約があるわけでございますので、早急にこれについても国内法との関係で締結方の検討に入っていただきたいと思います。

 次に、もう一遍差別扇動の問題でございますが、おととしてございますが、パケット通信というコンピューターを使った通信の中へ、要するに私が読むのもはばかられるような非常にシビアなといいますか、とんでもない差別文書というか差別通信がなされているという状況が今の日本の中にあるわけでございます。「奴らの所には 原発のような なまやさしいもの ではなく 原爆実験場を つくれ 奴らを殺せ」というのがコンピューターで流れるというところが日本にあるのですね、まだ。そういうことをする人があるのです。これについて表現の自由があるからということで手をこまねいているというのが、実は先ほど申し上げた人種差別撤廃条約の問題でございますし、それから自由権規約、これについてちゃんとした法規制がどうして日本にできないのだろう

か、ルールができないのだろうか、ルールを担保する仲裁機関ができないのだろうか、こういうことが今の日本の大問題ということになるわけでございます。

 この問題は電波法で、百七条でいわゆる暴力で政府を破壊することを主張する通信、あるいはわいせつな通信、いずれも発することを禁止をしておるわけでございますが、わいせつな通信を発することよりも差別的この種の扇動、「殺せ」という、こういうものを禁止する方が私はプライオリティーが高いと思うのです。なぜこんなものを法律で規制できないのか。電波法の関係について関係の部局から答弁をいただきたいと存じます。

○鬼頭説明員 先生御指摘のとおり、電波法の百七条、百八条で破壊活動に係る無線通信、あるいはわいせつな無線通信を発した者について罰則規定を設けております。

 一般に、通信の内容との関連で申しますと、個別法に罰則を設けることは、憲法上の要請でもあります通信の秘密との関係で極めて慎重に行われるべきものと考えております。このような電波法の百七条、百八条といった規定につきましては、電波といった非常に広域に広がる無線通信の手段、これが社会的影響が非常に大きいという特殊性にかんがみまして、その悪用を防止するため特別に電波法に処罰規定を置いておる、そういうことが妥当であろうということで置かれたというふうに理解いたしております。同種の犯罪に対しましての罰則規定が一般法でございます刑法においても規定されているところでございます。こういった意味で、御指摘の、差別等の通信に対応する罰則規定を例えば電波法に設けることにつきましては、一般法でございます刑法等におきまして現在その種の規定のないこととの均衡を考慮しますと慎重な対応が必要でございまして、極めて困難であるというふうに考えております。

○仙谷分科員 こういうことになるのですね。つまり、わいせつ通信についてはわいせつ物図画頒布罪があるから通信でやることも禁止できる。そうですね。それから、暴力的行為によって破壊活動することを主張する通信、これは破壊活動防止法とか、この間私のところにレクチャーに来た人は外患罪があるという大げさなことを言っていましたけれども、そういうものが一般刑法にあるから通信そのものをも表現の自由を制約しても禁止できる、こう言っているのですね。

 副総理、おわかりになったと思いますけれども、差別を禁止する基本法がないからできないんだと言っているのですよ。結局話はここへ帰ってくる、つまり各省庁がみんな、それは私の守備範囲でやるためには基本的な事柄がないからできないのだ、こう言っているわけですよ。だから、総合的な、あるいはちょっと高い立場に立った人が決断をするということでしか、この人種差別撤廃条約の問題どこの種の言動を法規制する、そしてそれを担保する制度、機関をつくらなければならないとすれば、つくるという方向に行かないわけですね。そういう問題であるということなんですよ。ひとつ副総理にすべてを預けるような、あるいは義務として申し上げるようなことも心苦しいのでありますけれども、最後に副総理の答弁をいただいて終わりたいと思います。

 いずれにしましても、日本が国内で外国人を含めて人権保障をどこまでできるのか、できているのかということ、国連の問題、ちょっと時間がなかったものですからお伺いする暇がなかったわけですが、国連に人的、資金的に、特に国際人権保障の観点から、どこまで我々が寄与できるのか、こういう問題が現実の課題になっているということをよくお考えをいただきまして、最後に、日本で副総理がリーダーシップを持って人種差別撤廃条約が締結できるような国内状況をつくるということを御決意を願いたいと存じます。

○渡辺(美)国務大臣 十分御意見も参考にいたしまして勉強させていただきます。

○仙谷分科員 終わります。