1990年06月05日 法務委員会

○小澤委員長 御苦労さまでした。

 仙谷由人君。

○仙谷委員 日本社会党の仙谷由人でございます。大蔵委員でございますので、きょうは差しかえということで質問させていただきます。従前の議論の経過をほとんど存じ上げておりませんので、重複した質問等が出るかもわかりませんが、ひとつ御容赦をいただきたいと思います。

 私自身、弁護士として商法事件、その他債権回収事件等々経験をしてまいったわけでございます。そしてまた、その中で今の企業の実態について、いろいろな形態がございますけれども、矛盾が非常に多く発生しておるというふうにも感じてまいったわけでございます。

 今般商法が全面改正される。昭和五十六年に大改正がございまして、その後五十七年から、後半部分の全面改正ということで法務省の方で精力的に取り組みをされたというふうに伺っておるわけでございますが、まず、この昭和五十七年から始まりました全面改正の理念と申しますか、趣旨と申しますか、そのような観点からどういうふうに取り組んでこられたのか、明らかにしていただきたいと思います。

○清水(湛)政府委員 御指摘のように、昭和五十六年の商法改正におきまして株主総会制度のかなり大幅な改善、あるいは株式制度、つまり額面金額を五万円とするという改正、単位株制度の導入等、主として大会社を対象としたかなり重要な改正がされたわけでございます。

 この五十六年改正というのは四十九年改正にさかのぼるわけでございまして、四十九年に、現在のいわゆる公認会計士等による外部監査の制度を大会社について導入いたしました。その際、当院の当委員会あるいは参議院の法務委員会におきまして、株式会社法というものを根本的に見直すべきではないか、大小会社の区分の問題だとか、大会社は大会社なりに、中小会社は中小会社なりの法制というものを考えるべきである、あるいは最低資本金制度というものの導入も真剣に検討すべきであるというような議論がされまして、それを受けて商法の根本的な見直し作業が始まったわけでございます。

 そこで、御指摘の五十六年改正、これは主として大規模な株式会社を念頭に置きました改正でございまして、これが一応済みましたので、大小会社の区分というような観点から、主として中小会社を対象とした法制度の洗い直しに入ったというのが、五十七年度以降進められてきました今回の商法改正における理念と申しますか、そういうものであったということが言えようかと思います。

 もちろん、我が国の経済活動の主体というべき株式会社及び有限会社の大多数が小規模あるいは中規模の閉鎖的な会社であるというような実情にかんがみまして、大臣も御答弁になりましたように、このような会社にも適合するような法制度を整備する、合理化する、あわせて債権者保護のために必要な措置を講ずる、最低資本金制度の導入もその一環でございますが、このような改善合理化をいたしまして、我が国における株式会社、有限会社の制度の充実強化を図ろう、こういうことに、この五十七年以降の改正作業の理念、趣旨があったというふうに考えておるところでございます。

○仙谷委員 もう少し哲学的なことをお伺いしたかったわけですが、反対側からお伺いをいたすわけでございます。

 今度のこの商法改正案の概要というふうな法務省が出された資料を拝見しましても、この商法あるいは法制度が形骸化しておるという趣旨が書か

れておるというふうに見ております。商法等による規制が形骸化しておる、この形骸化とか空洞化というふうにおっしゃっておるときに、実態としてどのような現象を指して法規制が形骸化、空洞化しておるというふうに見ていらっしゃるのか、その点について明らかにしていただきたいと思います。

○清水(湛)政府委員 形骸化、空洞化というのはかなり抽象的な言葉でございますけれども、要するに形骸化というのは商法で定められている諸規制が遵守されていないということを意味しているものと理解しているわけでございます。その最も典型的な例が、例えば株式会社につきましては決算公告という制度があるわけでございますが、百二十六万社の株式会社のうち、貸借対照表等の公告をしておる会社は一%ないし二%しかないというような事実がその典型的な例かと思われます。そのほか、例えば株主総会制度、取締役会制度あるいは監査役制度というものが果たして商法の予定するように有効に機能しているかどうか。特に、中小会社についてはほとんど機能していないのではないか。その一つの現象として、例えば訴訟等の事例におきまして、本来法人であるのに取締役個人の責任を例えば商法二百六十六条ノ三の規定に基づいて追及するとか、法人であるのに法人格が否認されるというような判例法が形成されてきておるということからも、そういうことをうかがい知ることができるような気がいたします。

 空洞化というのも形骸化と同じような現象だと私ども考えておりますが、実質的には商法が予定したような株式会社の実体が存在しないということ、もちろん資本充実とか資本維持の原則もほとんど守られていないというような面にもございますけれども、いわば商法の予定した株式会社あるいは有限会社としての実体が存在しないというような現状が中小会社を中心として、特に小会社を中心として存在しているという認識でございます。

○仙谷委員 今、商法あるいは商法をめぐる法制度の形骸化についての法務省の見解を承ったわけでございますが、まさに中小会社において、あるいは大企業においても株主総会の運営が形骸化しておるというふうなことが先般の改正でも言われて、現時点でもそれほど実質的に株主総会が活性化しておるというふうには見えない現況が一方にある。とりわけ中小会社におきましては、総会が開かれたようにペーパーがつくられておりますけれども、実際問題として開いておる会社がどのぐらいあるのか、これもわからない。さらには、おっしゃいましたように監査役の制度そのものが、大会社でも監査役を会社の元経理部長とか総務部長とか、いわば相互牽制が起こり得ないような、監査役の独立性が保持できないような選任の仕方がされたり、あるいは業務監査に至ってはほとんどされないというのが特に中小会社では典型的なんではないかと思います。そういういわば会社制度本来の趣旨とは全く異なった実態というのが相当の量といいますか範囲で存在するのではないか。そのことについての問題意識が、今度商法改正の試案というのをおつくりになったようでございますけれども、そこにあるというふうにお伺いをしてよろしいのでございましょうか。

○永井政府委員 委員御承知のとおり、今回の法改正は、ある面で中間段階における余り異論の少ない、ある程度の合意ができた部分についてとりあえず取りまとめたというものでございます。したがいまして、今回の法制審議会の答申の中にも盛り込まれておりませんものがたくさんありまして、例えば経営管理(運営)機構の改正でございますとか会計専門家による計算適正化の問題でありますとか、それとの関係で有限会社法制をどう見直すかという全般的なことが随分取り残されておりまして、今回の法案は、ある面で現時点でとりあえず異論が比較的少ないものを取りまとめた、そういう経緯がございます。したがいまして、そういった経営管理(運営)機構の改正というものは、これからさらに法制審議会等で十分検討されて煮詰めていくということになっておるわけでございます。

○仙谷委員 そういう理念のもとに参事官室で改正試案というのをおまとめになったというふうに聞いておるわけでございますけれども、この改正試案というのは、先ほどお述べになった理念のもとにおつくりになったのだろうと思うのですが、大体何本ぐらいの柱をお立てになったのか、その点お教えを願いたいと思います。

○大谷説明員 お答え申し上げます。

 何本というのは、ちょっと詳細に計算するには時間がかかりますので御容赦いただきたいと思いますが、設立、経営管理機構、株式・持ち分、計算・公開、資本減少、合併、その他、合計で九項目程度にわたる広範なものでございました。

○仙谷委員 計算の公開のほかに、いわゆる支配株主の責任であるとか、公開をしない会社の取締役の責任あるいは貸付金を劣後債権化するというふうな柱があったというふうにお伺いをするわけでございますが、それは、どういう理由でそういうものを今度の改正に盛り込もうというふうになさったのか、その理由。計算の公開の問題と支配株主の責任の問題、さらには取締役のいわば挙証責任を転換した債権者に対する責任の問題、あるいは貸付金の劣後債権化、こういう点についてお伺いをいたしたいと思います。

○永井政府委員 参事官室で作成いたしました改正試案の中には、委員御指摘のような支配株主の問題あるいは出資金とみなすべき貸付金の問題、それから会社から得た利益の返還、こういった債権者保護を目的とした考え方が提示されていたわけでございます。しかし、その後、法制審議会ではいずれも今回の答申には入り込みませんでした。一つ一つについて細かいことを申し上げても結構なのですが、例えば支配株主の問題でございますが、試案においては、五千万円未満の株式会社または有限会社で発行済み株式総数または資本の二分の一以上の株式または持ち分を有する株主、社員は、その者が取締役または取締役の職務執行に重大な影響力を行使する者であるときは、その地位にある間に発生した労働債権でありますとかあるいは不法行為債権について会社が弁済できない場合には直接その責任を負う、こういう考え方をとっていたわけでございます。しかし、これにつきましては、五千万未満であるとかそういうことで一体なぜ線引きをしなければいけないのか、あるいは具体的には取締役の職務執行に重大な影響力を行使するというのは一体どういう理由なのか、あるいはこの前も議論になりましたのですが、労働債権または不法行為債権だけになぜ限定しなければいけないのかとか、あるいはこういった株主あるいは有限会社における社員の個人責任を追及する、そういった条文化することが果たして現在の有限責任を基本といたします会社法制の中で整合性があるのかどうかとか種々の観点がありまして、さらに慎重に検討するということで今回の答申には盛り込まれなかったわけでございます。

 出資金とみなすべき貸付金につきましても同様の議論がございまして、現在の倒産処理手続の柔軟性を害するのではないかとか、これと調和する実効的な規定を考慮することが非常に難しいといったような観点がありまして、これも見送られたわけでございます。

 ただ、やはり債権者保護の具体的な問題につきましては、計算書類の登記所公開の問題とあわせてさらにいろいろな議論を詰めていきたい、かように思っているところでございます。

 

○仙谷委員 今の提案されておる商法の改正案の中で、一千万円という最低資本金制度、株式会社でございますけれども、それを提案されておって、それが債権者保護という観点から位置づけられておるようにも見えるのでございますけれども、今の御答弁をいただきましても、債権者保護というふうに言うときには??私どもはいわゆる債権回収事件で本当に苦労をいたします。法人格否認の法理を持ち出しての追及あるいは商法二百六十六条ノ三を駆使して一生懸命重過失とか故意を立証しなければならないというふうな難題ですね。そして、この貸付金につきましても、オーナー的

あるいは会社と非常に近い関係のある者の貸付金についてはいろいろな法律テクニックを使って債権が満足されるけれども、一般の債権者はもぬけの殻のところへ追及をしなければならないというふうなことで、取引の安全といいますか、債権者保護が十二分でない、むしろそのことによって連鎖倒産を引き起こしたり甚だ困窮に陥る中小企業というものも実は多いのではないか、こんな実態を経験的に感じておるものでありますから、この資本金一千万円というものがなぜ債権者保護になるのか。今御答弁いただきました支配株主の責任の問題とか取締役のいわば挙証責任を転換しての責任という規定が定められて初めて、そういう債権者保護というものが実態的に進んでいくのではないか、そのことが取引の安全につながるのではないかというふうに私あたりは考えるわけでございますけれども、その辺は、法務省の今度の法制審の答申に載らなかった。いろいろと難しい問題があるのだというふうなことをおっしゃるわけですが、しかし、裁判所では判例法としてはそれなりに形成されてきておるという実態も一方では存在するわけでございますので、この点について、今回改正法案に載っていませんけれども、今後鋭意検討されて、このような観点からの責任追及ということを試みるといいますか、追及を法務省としてされる御意思があるのかどうなのか、その点について御答弁をいただきたいと思うのです。

○永井政府委員 直接の御質問にお答えする前に、最低資本金が果たして債権者保護かどうかという問題の前提が少しございましたので一言申し上げたいと思いますが、物的会社におきまして会社の債権者がよりどころにいたしますのは、これは結局会社財産でございます。会社財産をある程度会社に留保しておきなさいあるいはそのように経営努力いたしなさいという一つの指標が資本ということになっているわけでございまして、この最低資本金というものは、会社設立のときの一つのバーとしてある程度の会社の実体財産を持ちなさい、それからまた、会社存続中におきましては財産を確保することによって不測の事態にできるだけ備えられるようにする、そういう機能を持っているわけでございまして、これは委員には釈迦に説法でございますが、あらゆる教科書でありますとかあるいは法制審議会等におきましても、最低資本金はやはり大きな意味で債権者保護の一つのよりどころであるということは言われておるわけでございます。

 ただいま委員が御指摘になりました具体的な、現に倒産したような場合の非常に困窮した場面における債権者保護という観点も、これは現実の目に見えた形の債権者保護ということが非常に問題になるわけでございます。これは、現に委員のように弁護士等をやっておられますと、本当に緊急のときにどうするかという問題が常に身につまされることであろうかと思います。私どもといたしましても、従来の二百六十六条ノ三でありますとか会社の法人否認の理論でありますとか、それ以外にも何らかの形で実質的な個人会社であるような方についての責任追及ということ、それが十分できるような法制というものはないかということを考えて、また改正試案にも現にそういったことが出てきたわけでございます。

 ただ、先ほども言いましたように、計算書類の公開等ほかの手段を含めまして、やはり全体的、総合的に検討いたしませんと、そこのところだけを突出して直ちにできるかどうかという根本論が随分ありまして、法制審議会の中でも必ずしもぴたっとこういうふうに意見がまとまりにくかったということ、ただ、私どもといたしましては、そういった手段も十分考えられる一つの債権者保護のあり方ではないか、困窮した場合、現にせっぱ詰まったときのあり方としてもそういうことは十分考えられるという姿勢でなお検討を続けてまいりたい、こういうように考えているわけでございます。

○仙谷委員 ちょっと法律論議の方に入り過ぎたような気がいたしますので、実態的なことをお伺いするのですが、現在提案されておる最低資本金一千万円につきまして、これについては何か中小企業いじめであるとか弱い者いじめである、こういう議論がされておるようでございますけれども、法務省どういう御見解でございますか。

○清水(湛)政府委員 最低資本金制度の導入につきましては、導入の必要性等については繰り返して御説明申し上げませんけれども、具体的に金額を幾らにするかということで大変議論があったところでございます。法務省といたしましても、新しい制度でございますので、法制審議会で御審議いただくに当たり民事局参事官室の方で質問書をつくりまして、例えば最低資本金としては幾らが適当であるかというような意見照会を各方面にいたしたところでございます。それに対しましては、一億がいいとか、株式会社については一億だとか五千万だとか三千万だとか、あるいは有限会社の最低資本金が昭和十三年当時一万円だったから、これは現在二千万円程度の価値があるので最低二千万だとか、有限会社について最低二千万だとか、そういうようないろいろな意見があったわけでございます。中小企業団体からももちろんいろいろな意見が寄せられてまいりました。そういう中で、中小企業団体等から中小企業に過分の負担がかかるようなものであっては困る、しかし最低資本金制度の導入自体は、これは中小企業の体質強化という面から絶対ノーということではないというような御意見もございまして、私どもそういう中小企業団体の意見も十分に尊重しながら、極めて長期間にわたる法制審議会の調査審議、中小企業団体の委員もおりますし、中小企業関係者の参考人の方にも来ていただくというような調査審議を繰り返しまして法制審議会の答申が得られたというふうに理解しているわけでございます。中小企業をいじめるとかいうようなことは毛頭ございませんし、中小企業団体自身、体質強化のためにこのような制度が必要であるというようなお考えのところもあるようでございまして、このようないじめとかそういうことは毛頭も考えてないということを御理解いただきたいと思います。

○仙谷委員 同じ質問を通産省の中小企業庁の方にもお伺いしたいわけでございます。

 この最低資本金制度の一千万、これが中小企業の負担を強いるという議論がございます。それから、先ほど私が申し上げた支配株主について責任を負わせる、あるいは中小会社の取締役について、会社が取引上の債務を負うほかに一定程度の要件のもとに取締役個人が責任を負わなければならないという規定をつくるとこの改正試案の中で出ておりますけれども、そういう責任規定をつくるということが中小企業の負担を強化する、中小企業いじめだ、こういう議論があるようでございますけれども、通産省はどういうふうにお考えですか。

○藤原説明員 通産省といたしましては、法務省で会社法制のあるべき方向を目指していろいろ制度を改正していくということにつきましては、当然のことながら十分理解しているところでございます。

 今先生おっしゃいました、では個々の中小企業者がどう考えているかということにつきましては、確かに、我々は何の迷惑も少額資本でかけてないのに何でやらなければいかぬのかという一部の声はあります。ありますけれども、先ほどからるる法務省の方から説明してございますように、全体の会社法制の基本的あり方なり国際化というようなことを踏まえて理解が進んでいるというのも確かです。ただ、我々が最終的に中小企業者の意見も集約しながら申し上げたことは、確かに理念を追求するのは理解するけれども、現行の商法のもとでもう既に多数の中小企業者が存在する。株式会社は百二十六万、有限会社は百四十万。これが、その内容いかんによっては確かに対応できないものもあるであろう。したがいまして、この歴史的な継続性なりに十分配慮し、また、一千万の話でございますが、これから新たに事業を起こそうというところも、最近はベンチャービジネスあるいはニューサービスということで多額の資本を要しないような企業がたくさん出ております。これらは、例えば創業者の意思によって、できれ

ば支配株主でどんどん事業をやっていきたいというような面も含まれてございます。我々としては、先ほどから申し上げておりますように、我が国経済の活性化の原点はやはりこういう中小企業の創業にある、これを余り阻害しないような形でみんなに受け入れられる案はいかがかということで、中小企業団体等の意見も踏まえて対応してきたところで、いじめ論とかそういうことでは決してございません。いろいろな意見を集約された結果、理解される案になっているというふうに思います。

 あと、後段にございました支配株主等の意見、それから取締役の責任、これは、中小企業団体は端的に言えば反対という意見があったわけですが、法制審の中でもいろいろ検討されました。いろいろ技術的な問題点もございまして、私が答える立場にはないと思います。先ほど来法務省の方でまとめてお答えになられたと思いますので、答弁は失礼させていただきます。

 以上です。

○仙谷委員 何というのですか、この中小企業の負担強化説、それから今の通産省の方の御説明でも、どうもこの種の議論で、会社という一つの社会的存在を最近強調される法人と、それに出資しあるいは経営に参画するという立場の個人の混同、一緒くたの議論が行われておるのではないか、まさに株式会社の制度の初歩の初歩が忘れられておるのではないかという気がしてしようがないわけであります。つまり、例えば資本金の問題にしましても、そこで最低資本金が決められたといたしましてもそれを負担するのは株主である個人でありまして、中小企業そのものが負担するということには法律制度としてはなってない、そのことがまさに株式会社の株式会社たるゆえんだというふうに私は思うのであります。ところが今、最低資本金を上げるということになると、会社の負担だ、会社の負担が強くなるというふうな議論が堂々とまかり通ったり、あるいは税制にしましても、何か会社に対する税金と個人、株主あるいは経営者に対する税金が一緒くたにして考えられるというふうな、坂本竜馬の亀山社中以来百二十数年たっておるのに、まことに混同した議論が行われておる。今のビジネスをめぐる国際情勢の中では甚だ情けない事態なのではないか。中小企業の育成というのは別の観点から行うべき事柄であって、この種の法制度を普遍化し、一般化する際に、会社と個人を一緒くたにして行っていいというものではないのではないかという感を強くしておるわけでございます。取締役の責任にしましても、支配株主の責任にしましても、会社というもので支え切れない、そういう公の存在で責任を果たそうとしない場合にどうするのかという議論でございまして、何でもかんでも取締役の責任を追及すればいいとか支配株主の責任を追及すればいい、こういう議論ではないわけですね。ところが、どうもその種の議論が横行しておるのではないか。私は残念でならないわけでございます。

 そういう観点からもう一点、今度の商法改正案で、これは法制審の答申にまで盛られております計算の公開の問題でございます。

 計算の公開の問題、これは改正案の文言をかりますと、株式会社のいわば閉鎖性をオープンにする、透明度を高める、そのことをもって取引の安全、つまり債権者保護に資するんだ、こういうことだろうと思うわけでございますけれども、そういう理解で間違いがないかどうか、法務当局の見解を承りたいと思います。

○永井政府委員 委員御指摘のとおりでございまして、計算書類の公開というものは現行法でも官報または日刊新聞紙に決算公告をしなさいと規定されているにもかかわらず、これが実際には守られていないという現状があるわけでございます。それで、法制審議会がいろいろ検討されましたのは、実は中小会社にふさわしい公告のあり方、公開のあり方ということで、登記所でやった方が手続や費用も少なくて済むのではないか、そういう考え方でやって議論としてまとまったわけでございます。

 ただ、何分こういう中小会社を中心にして体制がまだ十分整っていないという考え方もありますし、答申には盛られましたけれども、まだ意見が若干区々に分かれております。政府部内でも意見の調整が十分尽きかねておるところであります。そこで、できるだけ関係者の御理解を十分得ました上で早期にこういう方向に、答申どおりに進めていきたい、かように思っているところであります。

○仙谷委員 計算書類の公開については、本来会社という制度を利用する限りは計算書類が公開されなければならない。もちろん、まず第一番に株主に公開をされなければならない。それから、広く公開をされることはむしろ望ましいことだ、こういうことで現行制度もあるわけですね。それを中小会社にふさわしいような登記所公開という制度に持っていくんだという御説明でございますけれども、その程度のことがなぜできないのか私は不思議でしようがないのですが、その公開についても、公開すると会社の経理内容が丸裸になって乗っ取りを生むとか、あるいは取引会社から値引きを迫られる、そういう議論もあります。

 中小企業庁にお伺いをしたいわけですが、正しい経理を公開するということが今度はそんなに不正な取引を生む温床になるのでしょうか。その点どうでしょうか。

○藤原説明員 公開制度につきましては、おっしゃいますように、会社制度を利用する限り原則として公開されることが望ましいと考えておりますけれども、我々もちょっと意見をいろいろ聞いたわけですが、一般的に、確かにそうはいっても、公開の方法としてはやはり、我が国経済に広く影響力を持って取引先も多い大企業については、多目的、不特定の多数に対する観点から必要だろうというのは認めても、なかなか取引範囲が狭いあるいはそういうところの中小企業にまでも、現在でも要するに間接開示ということで株主、債権者への計算書類謄写、閲覧権が認められているわけですけれども、全く第三者に対してやることの有用性と、またその反面の影響については、やはりちょっと懸念がある。先生おっしゃったとおり、例えば下請け関係にあれば、複数の親企業と取引している場合、全体としてどれぐらいの収益になっているかというのは、普通はよほど強制されないと出さないで、むしろ出した場合にはさらに単価を値引きされる。個々の取引では大体わかっているわけですけれども。そういうことで、ここら辺については潜在的に非常にそういう問題がある。だから、会社法制の理念は全く尊重するわけですけれども、現実的に九九%守られていない中からどういうふうにアプローチしていくのか、受け入れやすいようにどうしたらいいかというのを非常に慎重に検討すべきじゃないかなというのが我々の考えでございます。

○仙谷委員 私の経験ですと、継続的取引におきまして親会社とか子会社とかというところは、多少力の強い方が計算書類の提出を求め、いわばいつでも調査に入れるような契約条項をつくっていますよ。今の実態はむしろ税務署用、税務申告用、金融機関提出用、自分のところの会計帳簿と三つぐらい帳簿をつくっている会社があるんじゃないですか。こういう不健全な経理、これは労働者の立場から見ても、それによってある種の利益隠しが行われて労働者に対する配分が少なかったりあるいは正確に払わなければならない税金が少々少なかったりするというのは、中小事業者の利益が守られるとしても、庶民の感情としては、額に汗して働く者の感覚からは許されないと私は思うのですよ。そのことが過大な負担を強いるのならともかく、公正な競争のもとに公正な商売をして利潤が上がれば、それに応じた税金を支払い、あるいは労働者に対してボーナスを出す、私は当たり前じゃないかと思うのです。ところがそうはならない、なっていないところがあるのではないか、三重帳簿などということがなぜ起こるのか、こういうことなんですね。もうそろそろ日本の企業社会もその辺の透明性と社会的責任を自覚した会社経営が行われるように、商法は商法で計算書類の

公開ということをはっきりと打ち出す、中小企業庁は中小企業庁でそのような観点から物心両面の援助を行う、育成を行うという方向に向きませんと、いつも後ろ向きの対策と議論では、これはもうこれからの、国際的な取引が中小企業といえども始まっておるわけですから、対外的な信用も得られないのではないかという感じがするわけでございます。

 そういう観点から法務省の方にお伺いをいたしたいわけですが、この計算の公開問題、そしてその公開をすべき計算書類の適正の問題、これについて早急に整備をして立法化するというおつもりがあるのかどうなのか、緊急の課題であるという御認識があるのかどうなのか、この点についてお伺いをいたしたいと思います。

○清水(湛)政府委員 計算書類を登記所において公開するという制度は今回の改正案には盛り込まれていないわけでございますけれども、御質問の趣旨は、仮に登記所でこれを公開することとした場合には正確な計算書類を公開する必要がある、そのための手当てがあるのか、こういう御質問だろうと思います。

 このことにつきましては、実は会計調査人という制度を導入しようということで議論が重ねられたわけでございます。資本金五億円以上あるいは負債総額二百億円以上の会社については公認会計士等の監査が現在強制されておりますので、これはいいのでございますけれども、それに満たない中小会社について、今度計算書類を登記所で公開する場合にそれをどうするかというようなことが議論になったわけでございます。法制審議会の答申におきましては、会計調査人というような制度を導入しなくても現在の監査制度のもとでも登記所に公開することによってある程度の真実性の担保はできる、つまりそんなにめちゃくちゃなものを第三者の目にさらすということは取締役の責任の問題にも波及してまいりますので、そういうことにはならないだろうという考え方のもとに、外部監査的な調査という制度は見送ったままで登記所公開に踏み切ったわけでございます。

 しかしながら、会計調査人というような制度がもしスムーズに導入できる、適当な人材を確保することができ、また中小企業側もこれを受け入れることができるというようなことになれば、これはまたまことに望ましい制度であるというふうに私ども考えているわけでございまして、この問題は将来の課題として引き続き検討対象といたしたいというふうに考えているところでございます。

○仙谷委員 お伺いしたかったのは、今お答えいただいた点もそうでございますけれども、計算の公開の問題を緊急の課題として、例えば年限を切って来年まで、来年じゃちょっと、一たん法制審でせっかく決めておるものをいろいろな事情で取りおろさなければならなかったこの事情をほぐすのに一年じゃ短い、二年ぐらいかかるとおっしゃるのだったら、再来年にはぜひやりたいというふうな、そういうおつもりがあるのかないのかということを一点、重ねてお伺いをしておきたいわけでございます。

○清水(湛)政府委員 来年とか再来年という、具体的に年限を切って申し上げることはちょっと残念ながらできませんが、私どもといたしましては、できるだけ速やかな機会にこの登記所公開制度は実現してまいりたい、こういうふうに考えているところでございます。

○仙谷委員 その場合に、法務省が登記所公開をする段階で、その正確性について、取締役の民事的、刑事的責任の問題、これを立法的に規定する、定めるというおつもりがあるのかないのか、その点についてもお伺いをいたしたいと思います。

○清水(湛)政府委員 登記所にそういう計算書類を提出すること自体についてのいろいろな制裁というのはないわけでございますけれども、現行法上も、例えば取締役が計算書類に虚偽の事実を記載するということになりますと、これは過料の制裁でしたか、制裁がございますし、もしそれによって第三者が損害を受けるというようなことがございますと損害賠償責任が生ずる、かように考えております。それを超えて、つまり現行法の枠を超えてさらに取締役に何らかの制裁規定を科すかということについては、これは検討課題とさせていただくことにいたしたいと思います。

○仙谷委員 一点お伺いをしておくのですが、商法四百九十八条ですね、今おっしゃった過料の問題というのが出てきておると思うのですけれども、この規定を使って従来過料を科されたケースというのはあるのでしょうか。

○永井政府委員 過料を科したケースはないと思います。これを現実に行うには、登記の場面だけで処理するということがなかなか難しいわけでございます。相当な手数と人員が要るという現状にございます。

○仙谷委員 そろそろ時間が参りましたので最後にいたしたいと思いますけれども、計算の公開の問題は、やはり企業あるいは企業経営者の社会的責任といいますか、みずからが社会性があるんだということの自覚といいますか、最近はやりの言葉で言えば、まさに緊張感があるかないか、こういうことにつながるのではないか、そういうふうに私は思うわけであります。つまり、企業経営者が、利潤はオーナーに、責任は会社に、これは有限責任で、責任持てなくなったらそのままほうり出すというようなことが行われるのでは、会社制度に対する信頼はなくなってしまうと思うのですよ。そういう観点から、この計算の公開そしてまた正しい適正な計算が行われて、それが公開される。そのために、適正さを担保するために、おっしゃいました会計監査人をどうするのかですね、会計調査人ということでなくても、会計監査をどうするのかという点をお考えいただくのと、虚偽記載の書類を出した場合のペナルティー、これについても十分お考えをいただきまして、この計算書類の公開というものを早急にお決めいただきたいと思います。

 それで、最後に法務大臣にお伺いするのですが、九二年にEC統合というのが行われるということで、ECでは商法の統一化といいますか、普遍化といいますか、共通部分を持とうということが何かしきりに言われておって、そこでやはり一つの大きな問題は、この計算の公開というのが大問題だ。大問題といいますか、透明性の問題が一番大事な問題なんだ、非常に大事な問題なんだというふうに言われておるということなんですが、日米構造協議で日本の企業社会についても透明性がないとか不公正な取引があるのじゃないかとか、いろいろなことが言われております。この商法問題でECから構造協議をしなければいかぬなんという議論が出てくるようでは、これは全く恥ずかしいことになりますので、その点、少なくともこの計算の公開については早急に整備していただきたいというのが私の議論でございますけれども、大臣、どういうふうにお考えになられますでしょうか。

○長谷川国務大臣 委員の御質問を拝聴いたしておりまして、ECの問題、私そう詳しくもないのでございますが、非常に貴重な意見でございますので、十分腹に置いてこれからも勉強させていただきます。

○仙谷委員 終わります。