テロ新法再議決の動議に対する反対討論

2008年1月11日

仙谷由人君 民主党の仙谷由人でございます。

 私は、民主党・無所属クラブを代表して、内閣提出のいわゆるテロ新法を憲法五十九条二項により再議決すべしとの動議に対し、反対の討論をいたします。(拍手)

 同条項には、確かに、参議院が衆議院が可決した法案につき異なる議決をした場合に三分の二以上の多数で可決できるとの法律成立の例外規定を置いています。しかし、我が国の憲法体系では国会が二院制をとっていること、憲法五十九条一項の、両院で可決したときは法律となるとの規定が本則であること、また、国会では一事不再議の原則が貫徹しなければならないことなど、五十九条二項を使って法律を成立させようとすることは極めて異例であり、その前に同条に定める両院協議会における協議や次国会での再提出などの丁寧な審議が前置されるべきで、しゃにむに数の力で押し切るなどという乱暴な運営は努めて回避すべきであります。五十九条二項はあくまで例外的規定なのです。例外的な権限を行使するためには、それを正当化するに足りる理由が必要であることは疑う余地がありません。

 すなわち、参議院の意思を否定してまで衆議院の多数で強引に法律とする緊急性、及び、これをしなければ国家と国民に回復しがたい危険が発生し、かつ損害を与えるというような具体的な事由がなければ、それは単に形式的に付与されている権限を濫用しているにすぎないものであって、憲法上も極めて疑義の大きいものというべきであって、少なくともその政治責任が厳しく問われなければなりません。

 つまり、内閣は参議院に対しては解散権を持っていませんから、参議院の異なる議決が、内閣と与党にとって、参議院を解散したいぐらいだけれども制度上はそれはできないという程度の重要性があって初めて再議決が正当化されると考えます。

 わずか六カ月前の参議院選挙において、給油継続を掲げた自民党、公明党は歴史的な敗北をいたしました。安倍内閣のもとで、思い込みの強い法案を、国会審議を空洞化させながら次々と強行採決をしたことに対する国民のノーという意思表示でございます。国民は、給油継続についてもノーという意思を示したのです。

 さらに、その結果、参議院では、民主党を比較第一党として野党が過半数を占めるに至りました。政権の基盤政党と異なる政治勢力が国会の片方で多数を占めるという事態は初めてではないとはいえ、日本の政治史上新しい段階に入ったという認識を持つべきであります。

 しかし、自民党、公明党で政権を握り、政権を自己目的化し、政権を維持することだけを存在理由としてきた与党の方々は、従来の癖と惰性で、たまたま二年四カ月前、衆議院三分の二以上の議席を調達していたことを奇貨として、単に数の力を頼んで、インド洋上における給油は継続ではなく考え直した方がいいという国民の現在の政治意思に明確に反することを今行おうとしている、それが本動議であります。

 二十一世紀に入って、先進国、中進国を問わず、政権交代を核としながら、公開と説明を使命とする議会をつくらなければならない、すなわち熟議の民主主義あるいは民主主義の民主化を各国は追求してきました。

 官僚内閣制と言われる我が日本の議院内閣制、与党の皆さん、与党の皆さん方が官僚に政策立案、法案作成をゆだね、与党内部における事前審査という内輪の議論が済めば、国会では質問をできるだけしないで一刻も早く議決することに奔走するという、このやり方がいわば国会を官僚作成の法律案の追認、製造機関におとしめようとするものであることに、与党の皆さん方は何の後ろめたさも時代おくれであることをも感じていらっしゃらないんですか。皆さん方は、官僚のたなごころの上で踊りを踊ることで国民の負託にこたえていると胸を張ることができるんでしょうか。

 例えば、建築確認申請についての建築基準法の改正、障害者自立支援法、高齢者医療制度の高齢者の支払うべき保険料やリハビリテーションの期間など、実態を無視した机上の空論のような法律案を次々と強行可決したものの、施行されてみると国民の悲鳴と不満が噴き上がって、慌てふためいて手直しするなどという事態が続出しているのではありませんか。

 防衛省の連続する不祥事、こんなにひどいとはわからなかったなどと弁解がましく大臣に述懐させた社会保険庁、直近では、ついに政治決断できず議員立法に逃げ込んだ薬害肝炎患者との和解など、国会、委員会での野党の問題点指摘や提案、あるいは有識者や現場実務者の参考人としての意見を真摯に謙虚に検討し、議会での合意形成を図るという政治姿勢があれば、官僚の厚い壁に煮え湯を飲まされ続け、与党の統治能力の欠如があらわになるというような、現在のような事態はあらわれていなかったと思います。

 与党は何ゆえに、国会の本会議や委員会の表舞台で堂々たる議論を重ね、国民によく見え、よくわかる仕方で止揚された結論や妥協点を探るという新たな政治をつくろうとしないんでしょうか。時代はそのことを要請しているんです。ましてや、今、国会は、参議院の過半数が野党に握られたのでありますから、今こそ、粘り強い、見える議論と、それに基づく新しい合意形成に向けた努力が求められていたのです。

 現に、動かない国会と言われながらも、委員会での議論の結果、民主、自民、公明三党共同提案の一件、委員長提案九件、野党の修正要求を受け入れたもの三件の法律が成立をいたしました。参議院野党多数の事態が後押ししたことによる新しい合意形成の萌芽も生まれています。

 しかし、与党は、この間、二度、六十六日間も国会を延長したにもかかわらず、ほとんどの委員会を開店休業状態に置き、民主党が委員会を開くよう要求しても、与党側がこれを拒否しています。特に、民主党提出の議員立法である年金保険料流用禁止法案、農業者戸別所得補償法案、イラク特措法廃止法案、及び国民新党との共同提案による郵政株式会社等の株式処分停止等法案が参議院において可決され、衆議院に送付されているにもかかわらず、政府・与党は一向に審議に応じようとしません。肝炎医療費助成法案についても、与党はたなざらしにしたままです。国会を堂々たる議論の場にすることに背を向けているのです。

 本動議は、憲法五十九条二項をあえて行使する条件がないのに、テロ新法の成立を自己目的化し、数の力で力任せに再議決をもくろむものです。

 給油を継続すれば日米同盟は安泰だと無邪気に信じ込んでいるようでありますが、全く国際政治の動向に無自覚、無感覚です。まことに哀れで情けない。オーストラリアでは労働党政権が登場し、イギリスではブラウン氏が政権についてイラク南部からの撤兵を開始し、アメリカ大統領予備選挙での議論を見ても、イラク撤退を前提にした中東和平とアフガニスタンの治安の確保、民生の安定について新しい構想がつくられなければならないことが共通認識にあるとき、日本が油を提供しようがすまいが、全く取るに足りない問題であります。

 そして、この半年間、政府・与党は、給油継続がすべてに優先するお国の一大事であるかのような大騒ぎをし、今また異例で例外的な再議決をもくろむ、それが本動議であります。愚かと言うほかはありません。

 このように、テロ新法は、再議決に付すような緊急性もなければ重要性もなく、これが可決しなければ国家や国民に重大な危険を発生させるという事態は全く存在しないことは明らかであります。

 与党と福田内閣は、二年半前に他の内閣が得た議席の数を悪用して、その要件を欠く再議決という挙に出る。国民がこれを支持することに自信をお持ちなら、今再議決を企図するのではなく、国民に信を問う、すなわち、テロ新法の成立を掲げ、改めて衆議院で三分の二の議席を得るために解散・総選挙を行うべきであります。

 このことを要求して、本動議に対する反対討論といたします。(拍手)