「憲法調査会中間報告書」における仙谷由人発言集

02.11.5

衆議院憲法調査会委員

仙谷 由人

 2000年1月20日から開始された衆議院憲法調査会の調査審議において、私の意見を私の責任において、発言いたしました。

 このたび同調査会が、中間調査報告書を作成し、衆議院議長に報告しましたが、報告書に要約された私の発言を抜き出して、列記いたしました。

 論憲の方向で、新しい憲法構想を練り上げていくために、各位のご参考にしていただくとともに、ご批判、ご反論をいただければ幸甚です。

 なお、読売新聞(11月2日付)に、「衆議院憲法調査会 4党議員 座談会」が掲載されております。併せてお読みいただきたく存じます。

「憲法」発言要旨

(目次)

 1.論憲

 2.論憲の方向性

 3.海外諸国の憲法事情

 4.「押し付け憲法論」批判

 5.解釈改憲批判

 6.現行憲法の重要のポイント

 7.戦争と安全保障

 8.国際機関

 9.国家と人権

10.人権保障の実効化

11.統治

12.首相公選制

13.日本の行政の問題点

14.分権、・自治

15.司法の憲法判断

1.論憲

 私は「論憲」の立場をとっていますが、衆議院憲法調査会の調査審議の中でこの立場の正しさについて確信を深めています。決定的に重要なことは、20世紀を総括し、その評価等を踏まえた上で、国のかたち、国家論等、人間の尊厳、人権論を構想し、論じ合い、でき得れば国民の合意形成へと練り上げることが重要であると考えます。

2.論憲の方向性

 憲法とは国のかたち、国家のありようを示す諸原則であり、基本法です。国のかたちとは、(1)人権のかたち、(2)中央政府と地方政府のかたち、(3)国際機構と日本国という主権国の関係を指し、これからの議論の方向性として、(1)国民主権制の豊富化、(2)法治主義の深化、(3)戦争否定の上に立った安全保障、(4)新しい人権あるいは国家の義務としての環境、生命倫理、知る権利、外国人の人権等が構想されなければならないと考えます。

3.海外諸国の憲法事情

 海外諸国において憲法事情の調査で知り得たことは、(1)各国の人権保障の制度的な担保、(2)国家主権の国際機関への委譲、(3)分権化の推進等、グローバリゼーションと国民の多様化の中で、効率的かつ強い政府をつくるための試みや、多様性を保障する「民主主義の民主化」のための工夫が大いに参考となりました。国際機構と国家主権の関係を整理し位置付けることが憲法上の課題と感じられたところです。

4.「押し付け憲法論」批判

1)

 

今の憲法は連合国占領軍司令部によって押し付けられたものであるから、自主憲法を制定すべきだという考え方が声高に主張されています。しかし仮に、戦後の日本が、明治憲法下と同様に、天皇主権、天皇による統帥権を認め、人権が法律の留保により制約されているという体制を続けていたとするならば、20世紀後半、国際社会において日本が認知され行動できたか否かを考えれば、明治憲法回帰願望にその源を持つ「押し付け」憲法論、自主憲法制定論の時代錯誤性は明らかです。

2)

 

当時の政権党だった自由党、進歩党の憲法草案が大日本帝国憲法の内容と大差がなかったことが、ポツダム宣言にもとづいて占領統治を行おうとしたGHQの介入を許した原因ではないかと考えます。

5.解釈改憲批判

 内閣法制局が憲法の公権的解釈を自らの手に独占するとの態度と、これを許した歴代政府が恣意的な憲法解釈で既成事実を積み上げていくということが、戦後ずっと行われてきました。21世紀にはこのようなことはあってはならないと考えます。

 

6.現行憲法の重要なポイント

 現行憲法は前文で、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、」と定めているが、これは本物の近代国家への変革を遂げる決意と評価でき、また、憲法を考える際の共通認識としなければならないものであると考えています。

7.戦争と安全保障

1)

「国のかたち」を議論するに当たっては、戦争の否定の上に立った安全保障が考えられなければなりません。

2)

アジアにおける平和の枠組みの構築に日本がどのような形で参加していくかが問われています。

3)

9. 11事件への対応のあり方が問題になったことにかんがみれば、国連による集団安全保障についての考え方を確立することが大きな課題となっていると考えます。

8.国際機構

 冷戦崩壊後の市場経済の単一化に伴い、欧州諸国の例に見られるように、軍事、司法等に関する国家の主権は、徐々に主権国家を超えた国際機構への委譲を余儀なくされています。集団安全保障、中央政府と地方政府の役割等の問題についても、そのような観点からの整理が不可欠であると考えます。

 

9.国家と人権

 近代国家の原則は、憲法および議会で制定された法律が権力行使をコントロールし、議会は主権者たる人民の代表者の意思に基づき、国家は人々の基本的な権利を侵してはならないということです。これは、世界人権宣言・国際人権規約で定められた基本的人権の尊重という普遍的価値と軌を一にするものです。

 

10.人権保障の実効化

 ロシア及び東欧諸国の憲法を調査してみて、各国ともに共産主義体制下の人権抑圧についての反省から、人権保障をどう制度的に担保するべきかという発想が強いことを感じました。

 憲法裁判所、人権オンブズマン、児童権利擁護官等の憲法上の規定を参考に、日本の人権保障の問題としても制度的担保に注目すべきであると考えます。

 

11.統治

 統治機構を考えていく上では、あらゆる部面で政治に国民が関与し、決定していくという観点が重要であると考えます。

 

12.首相公選制

 イスラエルの首相公選制の導入は、小政党の力を相対的に弱めようとしたものであったのにかえって小政党の力を強める結果となったという点で印象に残りました。

 

13.日本の行政の問題点

1)

日本の官僚は、いまだに天皇制官僚時代の官尊民卑の意識を持ちつづけているのではないかと考えられる程、自らの権益擁護を第一義としているため、様々な面において制度疲労を来している日本の現状に対処できず、有効なかつ意味のある改革がなされないままになっていると思います。

2)

省庁の権益のみが重視され、必要な改革がなされ得ない「官僚主導」の現状に係る諸問題を解決するには、ポリティカル・アポインティー(公務員の政治任用制度)の導入を考えることも選択肢の一つだと思います。

14.分権・自治

1)

日本の行き詰まりの最大の原因は、憲法第65条「行政権は内閣に属する」という規定を我田引水的に曲解運用し、司法と立法を除くすべてのことを中央集権的官僚機構で取り仕切り、自治・分権に踏み切らないところにあります。

2) 

地方分権推進法等が制定されたにもかかわらず地方分権が進捗しない理由として、財政、財源について何らの保障もないという問題が挙げられます。分権の推進を唱える一方で依然として補助金行政を続けている日本の病的構造が、中央依存、たかりというモラルハザードを自治体の側に引き起こし、莫大な額の財政赤字の原因にもなっています。

15.司法の憲法判断

1)

違憲立法審査権が機能不全であるのは、個別事件を通してしか審査できないという憲法の規定やその解釈に相当の原因があるのではないか。ヨーロッパを見て、憲法秩序や、法の支配あるいは法治主義が真っ当に行われるためには、憲法裁判所なり憲法の審査院のような法律や制度を個別の事件とは離れて憲法判断をするという機構がある方がいい、と思います。

2)

例えば地方公共団体の公権力の行使について、現行の地方自治法では住民訴訟により憲法基準に照らして問題点を提起できる道が開かれている一方で、国民が国の権力行使に対しては国民が訴えを起こすことを可能とする規定はない。これは、現行憲法体制を前提にしても大問題である。最高裁判所が住民訴訟に匹敵するものをつくるべきであると判決文において示すか、国会に別の方法でそれを促さなければ、憲法訴訟、憲法判断は活性化しないと考えます。