未来志向の憲法論議へ 理想と現実の接点探る

※2002年11月2日付 読売新聞より転載

衆議院憲法調査会 4党議員座談会

 読売新聞社は衆院憲法調査会の中間報告が一日公表されたことに合わせて、自民、民主、公明、社民四党の同調査会幹事らによる座談会を開いた。憲法に対する基本姿勢や、九条・安全保障、基本的人権、統治機構などの問題を中心に、活発な議論が交わされた。(司会は上村武志政治部長)

はなし のぶゆき

葉梨 信行 氏

自民党憲法調査会長。衆院茨城3区。自治省。北大卒。当選12回。73歳。

せんごく よしと

仙谷 由人 氏

民主党憲法調査会長。衆院徳島1区。弁護士。民主党政調会長。東大中退。当選3回。56歳。

あかまつ まさお

赤松 正雄 氏

公明党憲法調査会事務局長。衆院比例近畿ブロック。公明党副幹事長。慶大卒。当選3回。56歳。

 

かねこ てつお

金子 哲夫 氏

社民党憲法部会長。衆院比例中国ブロック。社民党広島県連代表。島根県立出雲高校卒業。当選1回。54歳。

 

活発な議論を交わす(左から)葉梨(自民)、仙谷(民主)、赤松(公明)、金子(社民)の各氏(手前は司会の上村政治部長)

変容する社会情勢 どう対応

●総 論

---二年半余りの憲法調査会の議論をどう振り返るか。また、今後どうあるべきか。

 葉梨氏 闊達(かったつ)な議論を展開してきた。社会の状況、国民生活、日本を取り巻く国際情勢、安全保障問題、貿易の進展などに対応し、国のあり方を規定する最高法規である憲法を柔軟に見直していくことが必要だということは、早くから指摘しているところだ。

 仙谷氏 グローバリゼーションの中、国家の主権が変容を迫られ、国家と国民、国家と国際機構、国際社会を考え直す時期に来ている。諸外国の視察を通して充実して落ち着いた調査、審議が行われてきたと積極的に評価している。

 赤松氏 極めて精力的な議論が行われてきた。公明党も「論憲」というタブーを設けない立場で、かなり大胆な発言をしてきた。理想を現実に近づけるのか、現実を理想に近づけるのかという議論がなされているが、理想も現実も両方が歩み寄り、接点を見つける作業をしないといけない。

 金子氏 戦後五十七年間、日本国憲法が現実の政治にどのように生かされたかを今、もう一度振り返ることが大事だ。現実と憲法のかい離と言われるが、どこがかい離しているのか、かい離しているとすれば何が主因なのか、考える必要がある。

---憲法制定の経緯についてはどう考えるか。

 葉梨氏 占領軍が、軍事的にも政治的にも日本を二度と米国の脅威にしないという大方針で厳重な検閲とか言論統制の下、日本に憲法改正を迫った。(占領者は占領地の現行法を尊重しなければならないと定めた)ハーグ陸戦規約に照らして、現行憲法は歴史的な正当性を欠いていると判断せざるを得ない。ただ、実定法としては有効だ。

 仙谷氏 軍国主義の復活を絶対に許さないという連合国側の強い意志があり、人権の尊重、人間の尊厳、民主主義化という世界的な潮流の中で日本国憲法を作らざるを得なかった。押しつけられたのは「国体の変更」であり、侵略戦争の敗戦国であるから、二十世紀後半の潮流に従うしかなかった。

 赤松氏 今の憲法には官僚主導、中央集権的な部分が色濃くある。どういう国家を今後は目指すかという議論がなされているが、国家が人間を支配、規律する憲法から発想を転換し、国家が個人に奉仕していくことを色濃く出す方向にしなければならない。

 金子氏 今の憲法は制定当時多くの国民から圧倒的な支持を受けた。主権在民、平和主義、基本的人権の尊重、地方自治の考え方は変えてはならない、とほとんどの委員が話している。成立過程の問題はそろそろ卒業した方がいい。憲法の基本的な考え方は二十一世紀にも当然生きていく価値がある。

 

文化・伝統に触れたい 葉梨

普遍的な原理中心に 仙谷

●前文など

葉梨氏 次の通常国会では議論したい問題がある。まず家族の大切さをうたいたい。もう一つは宗教教育を盛んにする条項を工夫したい。最後は前文の検討だ。今の前文は無国籍的な内容だ。前文を改正し、日本の文化、伝統などに触れ、主権在民、民主主義、基本的人権の尊重という原則、あるいは地球社会の中の日本のという視点、平和を大事にして国際協調を進めるという方向を書き込みたい。前文の検討については、国民の参加を求めてはどうかと思う。どんな要素を盛り込むか、美しい日本語でどう書くかなどについて国民に案を募集したい。集まった案を国会で各党が協議し、改正案を作成したらどうかという提案を今後の調査会でしたい。

仙谷氏 前文は、普遍的な原理を中心に書いていく方が、憲法としてはふさわしい。教育勅語みたいなことを書いても、あまり役に立たないのではないか。家族、地域社会の大切さは非常に重要と思う。

金子氏 今の憲法は、国際社会における日本を強調している点などが大切だ。家族の問題は、憲法で規定するとか、法律で規定する問題ではないのではないか。

自衛の軍隊認めよ 葉梨

危うい「解釈改憲」 仙谷

■憲法第九条

(1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

(2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

●九条問題

---日本の安全保障をめぐる環境が大きく変化してきた中、憲法九条問題をどう考えるか。

 葉梨氏 九条一項の侵略戦争はやらないというのは当然だ。私個人の見解だが、国を守る国民の気概と日米安保体制の堅持を前提として、九条二項を削除して自衛のための軍隊の保有と交戦権を明示するべきだ。また、シビリアンコントロール(文民統制)の原則を明確にし、国際秩序維持のための国連を通じた積極的な関与をうたってはどうかと思っている。

 赤松氏 一項、二項を含めて九条は触らない、というのが公明党の基本的考え方だ。我が党は、自衛隊の存在について極めて違憲の疑いが強いとした時期もあったが、一九八一年に日米安保条約と憲法に対する見方を大きく転換した。その時点から、二項の規定は「自衛隊を肥大化させない歯止め」としている。ただ、二項はあまりに現実とのかい離が大き過ぎる。自衛権すら認めず、解釈の大きな落差を生み出す弊害がある。私個人は、二項は見直す必要があるという立場に立っている。

 仙谷氏 憲法と法律の関係をしっかり押さえないと、制度は変わっても憲法はそのままにしておいて解釈を変えればいいという議論になる。憲法の解釈権が内閣法制局にあるというのも非常に不健全だ。現在は、巨大な自衛隊の存在を憲法上コントロールできる根拠がない。むしろ自衛隊の存在を憲法に文民統制という視点で位置づけるべきだ。非核三原則や徴兵制の禁止なども憲法に書くべきだ。

 金子氏 社民党は九条を養護する立場だ。平和憲法を持つ日本は本来、もっと積極的に国際紛争解決の役割を果たせるはずだった。ほとんどの近代戦争で市民の犠牲が圧倒的に多い現実を見ても、武力による平和の維持よりも平和的に解決することが重要である。今のアジアの状況で、日本が憲法を改正し、憲法上も軍隊を持つことを認めれば、(他国に)大きな危惧が必ず出てくる。

 葉梨氏 平和主義を唱えない国はない。だが、平和主義を唱える国で軍隊を持たない国もない。平和主義には変わりはないが、世界第二位の国民総生産(GNP)を持つ日本への国際的な期待は大きい。そこを考慮しながら、自衛隊の存在を考えないと、現実に合わない。

 仙谷氏 戦後五十数年たって、核兵器の存在もあり、国家間戦争はできなくなった。昨年九月の米同時テロが象徴する事態、国家間戦争とは違う武力紛争にどう対応するかが今の課題だ。それなのに、自衛隊合憲・違憲の議論に終始していると、世界に比べて一周遅れの議論になる。軍事にかんする主権を国際機関に委譲するなどの国際協力の仕組みを議論しなければいけない段階に来ている。

「武力一体化論」卒業を 赤松

国際貢献、軍事以外で 金子

■集団的自衛権と集団安全保障

 集団的自衛権は、同盟国が他国に侵略された時、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、同盟国とともに他国に反撃する権利。内閣法制局は「日本は各国固有の権利として集団的自衛権を有しているが、その行使は憲法九条で許されている必要最小限度の(防衛の)範囲を超えており、できない」としている。

 一方、集団安全保障は、国連のような多国間機構で禁止されている武力行使をある加盟国が行った場合、他の加盟国が一致して、軍事力を含む制裁などを加え、平和を維持するシステム。

 国連憲章五一条は「国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的、集団的自衛の権利を害するものではない」としており、集団安全保障が機能するまでの間、集団的自衛権を含む自衛権の行使を認めている。

●集団的自衛権

---国際的な平和創出に日本が貢献する必要があるとの認識が定着する中、集団的自衛権が制約になっているとの見方があるが。

 葉梨氏 集団的自衛権は何か悪いもの、との認識が国民にあったが、(同盟国が)危急の時には一緒に守る仕組みだから、逆に軍備は少なくて済む。二カ国、三カ国が一緒になることで、一国だけで悪いことはできない。さらに効率的な自国の防衛を確保するためには、集団的自衛権の受け止め方についても、もう少し肩ひじを張らない議論が必要ではないか。

 仙谷氏 集団的自衛権と集団安全保障の議論がごっちゃになっていると思う。国連憲章の思想的潮流の中で憲法が作られている以上、集団安全保障にはできる限り参加し、協力する態勢を取るべきだ。重要なのは、集団安全保障とは、日本の国権の行使ではなく、超国家的な国際機構に主権の一部を委譲し、その制裁措置や防衛行動に参画するということだ。

 赤松氏 公明党は、憲法を改正しないと集団的自衛権を行使できないという立場だ。改正して行使できるようにすることには否定的だ。一番大事なのは、日本が海外における直接戦闘行動に参画しないことだ。国連平和維持活動(PKO)協力法、周辺事態法、テロ対策特別措置法の流れの中で、「これは武力行使との一体化で集団的自衛権の行使につながる」という議論がよくされたが、私は武力行使一体化論はもう卒業した方が良いと感じる。海外における直接の戦闘行動、例えば米国のアフガニスタン攻撃に加わった英国のような活動は断じていけないが、米国の軍事行動を後方から非軍事的部門に限って支援することまで集団的自衛権につながるという主張は違う。今の日本の憲法で許されるギリギリの知恵だ。それ以上やるかどうかについては極めて否定的で、今が限度だと思っている。それ以上やる場合には、憲法を改正しないといけない。

 金子氏 自衛の名によって、その(憲法で許される)限度が広がっていった歴史的事実がある。結局、歯止めがない。国際貢献は軍事以外の協力もある。湾岸戦争の時はお金だけ出したと批判されたが、それを徹底すれば世界的に認知されるのではないか。テロの問題も、武力だけでは解決できない。その根元にある貧困などの問題の解決に日本は貢献できる。

●対イラク攻撃

 仙谷氏 米同時テロは本来、国際刑事事件で、ビンラーディン以下の関係者を逮捕するためにあれだけの軍事行動が必要だったということにしないと合理化できない。やはり国連の旗の下で行われる限り、日本も相応の協力をするという方針でないと、対応できない。日本が後方支援活動をするかどうかは別の次元の政策選択の問題だ。

 赤松氏 米国のイラク攻撃への対応をどうするかが問題だ。私はテロ特措法の考え方に基づき、後方から非軍事的分門に限って支援するしかないと思う。その場合、新たな立法作業も必要になるのではないか。もちろん米国の先制攻撃を認めるのではなく、あくまで国連安保理の協議を優先(し、決議を採択)することが大前提だが。

 仙谷氏 国連の意思としてイラクに強制的な行動を取る場合に日本が協力するのは肯定されるが、日米安保条約は極東条項があるのでイラクへの攻撃協力はできない。米国も国際法を考え、各国を説得して米国の意図を国連の意思にすることを考えないといけない。単独行動で無謀なことをやっていると国際的秩序を破壊しかねない。

 赤松氏 そういう意味では、文字通り欧州、日本の知恵の見せ所だ。仙谷氏が言ったように、米国の単独行動を思いとどまらせ、外交交渉の段階でケリをつけるようにしっかり忠告する必要がある。

首相公選日本に合わぬ 金子

仙谷 政党に公的資格与えよ

■道州制

 47都道府県を、より広域的な行政単位である「道」や「州」に統合・再編する構想。中央集権体制の限界や国家財政の危機的状況から、国から地方への財源移譲など地方分権推進のための新たな受け皿として経済界や有識者などが提案、政界でも支持を広げている。読売新聞も97年5月、現在の都道府県を12の州に再編することを提言している。

●統治機構

---日本の統治機構はいろいろな問題が生じてきている。首相の指導力や内閣、国会、政党などの問題について意見を聞きたい。

 赤松氏 細川政権の時、先輩議員が「閣議に出て驚いた。首相は単なる司会役で、すべて(事前に)決まっていて、まともな議論が行われない」と言っていたのが印象的だった。首相の権限は今の憲法法制では非常に低い位置付けになっており、見直しを検討しなければいけない。

 葉梨氏 首相公選制については、イスラエルでペレス元首相や学者らに話を聞いたが、うまく機能しないということだった。首相のリーダーシップを高めるには、現行の議院内閣制度の改善が良いか。首相公選制を考える懇談会(座長・佐々木毅東大学長)の報告書にあったが、選挙前にリーダー(首相候補)を決めて第一党になったらその人が首相になる方式は、比較的やりやすく、選挙民にも分かりやすい仕組みだと思う。政党の努力でできないことではない。

 金子氏 直接選挙で首相を選ぶのは、日本の土壌にあまり適さないのではないか。

 仙谷氏 首相公選制と議院内閣制は重要な問題を提起している。直接トップを選ぶことで、首相と国民の距離が近く感じられるかもしれないが、議会との政治的意思が食い違った場合、矛盾を解決するのは極めて難しい。議院内閣制の方が、民主主義の経験と知恵が十分に生かされるのではないか。小泉首相は大統領的なトップを意識しているが、議院内閣制は政党と内閣が一体でないと成立しえない。

 赤松氏 首相公選制は公明党も勉強したが、イスラエルのケースもあり、急速に熱意がしぼんでいる。小泉首相の特異性はあるが、いつまでもやるわけではないので、仕組みをしっかり整備する必要がある。

 金子氏 最近の選挙の抵当票率では、国会議員が本当に国民の信託を受けているのかと問われかねない。また、国会では参考人質疑や地方公聴会がなかなか開催されず、しかも「これをやれば採決だ」との空気があり、形式的だ。内閣の審議会や委員会も国民の声を反映するシステムに改善しなければならない。

 仙谷氏 情報公開や国民投票など、国民の政治参加の道をより開き、国民主権の中身がより豊かになる仕組みを考える必要がある。また、行政監視は国会が本来的に担うべきだろう。決算につては、米連邦会議の会計監査院(GAO)のような仕組みを取り入れた方がいい。

●政党

 金子氏 政党法が必要かどうかは別にして、今の公職選挙法にも制度上の問題はあると思う。比例選出議員の離党問題など、政党と議員の関係は整理する必要がある。

 仙谷氏 政党を憲法上の存在にするとか、政党法を作り、政党に公的資格を与えたほうがいい。公的助成をもらっていることを考えると、公的な存在としての権利、義務を明確にした方がいい。

 葉梨氏 政党の定義も明確にした方が良い。

 仙谷氏 参院は「衆院のカーボンコピー」と言われないよう役割を限定すべきだ。大臣にはならないとか、予算は衆院、決算は参院のそれぞれ専権事項にするとか、本気で参院改革を考えた方がいい。選挙制度も似ており、中身もほとんど同じでは、自らの存在価値をおとしめる。

 葉梨氏 衆院と参院は今、選出母体がほぼ同じだがそれで良いのか。英上院は世襲貴族の議員を廃止し、有識者を入れた。両院が存在することは良いが機能の見直しは大事だ。

 金子氏 参院の問題は、参院の憲法調査会でしっかり議論し、結論を出してもらいたい。参院先議の法案がいくつかあるが、それで十分ではないはずで、改善しなければいけない。

●国と地方

---国と地方の関係はどう位置づけていくべきか。

 葉梨氏 大都市圏に人口と産業・文化施設が集中し、過密と過疎が全国に広がる状況は放っておけない。道州制が意味のある改革になるかどうか。憲法にうたうべきか、法律事項でやったら良いのか、憲法調査会で勉強したい。

 金子氏 道州制(が本当に良いのか)は突っ込んで論議する必要があると思う。

 仙谷氏 国家や中央政府の役割は、実は限定的にならざるを得ないのに、経済界を含め国民の多くは、政府に甚だ期待し過ぎているのが現状だ。これが財政大破綻につながっている。生活に関係する身近な問題は、自治体が事故責任でやる大胆な分権による「地域主権」の仕組みを取り入れるしかない。

 赤松氏 地方分権推進法制定により多少前進しているが、何もかも中央がやる形は好ましくない。中央と地方の役割分担を、しっかり憲法で規定していくことが大事だ。

環境権などを「加憲」 赤松

「公と私」の均衡重要 葉梨

●新しい権利

---環境権、プライバシー権など新しい権利を憲法に盛り込む問題は、今の憲法が社会の変化に対応しておらず、現実とのかい離の一例として指摘されている。

 仙谷氏 諸外国、特に二十世紀後半に人権抑圧を繰り返した旧社会主義国は民主主義体制に転換した段階で、人権救済の制度的保障を工夫している。だが、日本の場合、人権問題は裁判所に任せ切りだ。日本がラストランナーとならないよう、人権保障の制度的担保をどうするかという議論をしなければいけない。

 赤松氏 十一月二日の公明党大会で環境権やプライバシー権などを憲法に追加して書き込むこともあってもいいという意味で「加憲」を提起する。公明党が初めて憲法を変えることに踏み出そうとしている。合意を得られやすいテーマから、足らざるを加えていく格好で、五年間の憲法調査会の議論の後、最長五年の間にどうするか議論すればいい。

 仙谷氏 環境権は、欧州諸国などの憲法では、国、地方自治体、国民に環境保全義務があると定めているところが多い。環境についての国民一人一人の権利が保障されると改めて思った。

 金子氏 憲法改正論議とは切り離して、環境、プライバシーは非常に重要な政治課題だ。今の憲法の下でも、環境、プライバシー問題について積極的に法整備を進めることはできるし、やるべきだ。

●公共の福祉

---個人も社会的存在であり、公共の福祉のために個人の主権もある程度制限されると思うが。

 仙谷氏 日本の公共の福祉は「官僚の福祉」や「時の政府の福祉」だったことも間違いない事実だ。国家と個人は敵対関係ではないが、対立概念であることは間違いない。その緊張感の中で国民が、「市民的な公共」をどう作り上げるかが重要だ。

 葉梨氏 国家という観念が戦後、非常に希薄になっており、公と私、権利と義務のバランスをきちんと直さなくてはならない。国が「悪」である戦争をやったため、戦後の憲法制定時は、国を否定したい潜在意識もあっただろう。しかし、五十数年たった今、国をありのままに認める必要がある。トヨタ自動車が社債をニューヨークで発行するとき、日本の国際の格付けが下がると社債の格付けも準じてしまう。今はグローバル時代だが、国が一つの枠組みとしてあると、若い人たちに教える必要がある。憲法に「国を守る義務」は書くべきだ。これは、無論、兵役の義務などを言っているのではない。

 赤松氏 企業トップの無責任とか、現場の学校教師の無責任とか、深刻な問題が今、集中的に出てきている。戦後日本の民主主義教育の中で、しっかり子供を教育してこなかった側面がある。憲法にどうか書くかはなかなか難しいが、非常に重要なテーマだ。

 金子氏 公共の福祉は、今の憲法でもうたわれている。日本の場合、個人と国家の力関係では、個人の方が弱い。まず情報公開などを通じて、個人と国家、政府の対等な関係を作らないといけない。

国民的熱意 結集を

●今後の論議

---今後の憲法論議をどう進めるのか。

 葉梨氏 今後は精査する段階に入るというのが私の認識だ。来年から憲法各章ごとの審議をする方向で各党と相談したい。

 仙谷氏 民主党は七月に党憲法調査会の最終報告を発表した。二十一世紀、未来志向型の新しい憲法構想を作ろうという意気込みでやっており、(今後は党全体として)ある種の方向性を出さなければならないと思っている。ただ、国会議員だけが盛り上がるのではなく、国民的な議論として熱意を結集することが必要だ。世界各国は憲法を相当変えているが、国論を二分する対立の中で変えるのではなく、国民と国会の議論を一定の方向に収れんさせ、大多数で変えているケースが多い。そこまで持っていくにはメディアの役割が大変重要だ。また、国民にも、憲法論議が今後の日本の国のかたちを決めるという観点から議論に参加してもらいたい。

 赤松氏 憲法調査会の五年間の協議の中で方向性を定めるべきだ。私は個人的には全く新しい憲法を作りたい希望はあるが、それには相当なエネルギーを要する。従って、憲法の大枠はそのままで、部分的に合意ができるところからスタートし、じっくり議論していけばいいと思う。

 金子氏 社民党は、憲法は今のままで二十一世紀を十分生きていけると思っているので、その方向で議論を進めたい。調査会は、憲法が半世紀以上生きてきたことをもう一回検証する作業が必要ではないか。

※2002年11月2日付 読売新聞より転載しました。この記事に関しての無断転載はご遠慮下さい。必要な場合は、事前にご相談ください。