RCC機能強化は 国家による「不良債権飛ばし」だ

週刊エコノミストへの寄稿文

不良債権最終処理のための政策として、整理回収機工(RCC)の機能強化が急浮上している。金融機関の不良債権をRCCが簿価で買い取るというものだが、かつて早期健全化スキームづくりに尽力した仙谷由人衆議院議員(民主党)は、これを「国家的規模の不良債権飛ばし」と断じる。その上で「金融再生ファイナルプラン」を提言する。

民主党予算委員会筆頭理事 仙谷 由人

「日本はバブルの負の遺産を完全に解消し、完全に復活する体制を整えつつある」

 今年1月に開催されたダボス会議において、当時のわが国の首相は、全世界に向け高らかに、こう宣言した。官僚が書いた作文をそのまま朗読したものであったとは言え、一国のリーダーのあまりにお粗末な現状認識に、私は背筋が凍りついた。

 振り返れば、バブル崩壊後のこの10年間、政治家も金融当局も銀行業界も、「不良債権処理は峠を越えた」というデタラメな大本営発表を何度も繰り返してきた。不良債権の総額という最も基本的な問題さえも、明らかにはしてこなかった。その決定版とも言える発言が冒頭の森前首相の発言であり、わが国は決定的に世界のマーケットから冷笑を浴びた。

 今また、わが国の金融システムは危機的な状況を迎え、経済の持続的成長のためには“不良債権処理”が前提であるとの大合唱に包まれている。

 しかも、拓銀や山一證券、長銀、日債銀が次々と破綻した97?98年の金融危機よりも、その問題は深刻化し、金融システムのみならず財政、産業、国民生活などあらゆる面に致命的なダメージを与える可能性が高まっている。

 本稿では、98年秋の“金融国会”において、金融再生のためのセーフティ・ネットとして総額60兆円もの公的資金枠が整備されたにもかかわらず、政府・与党が金融再生法と60兆円を有効に行使せず、金融再生に失敗したその理由を明らかにするとともに、私が考える、真の金融再生のための“金融再生ファイナルプラン”を示したい。

 

甘い資産査定と引き当て不足が今日の危機を招いた

 98年夏の参院選が始まる前から、私は、わが国経済は“金融デフレ”とも言われる状況に陥りつつあるとの認識の下、エコノミストや銀行関係者から金融機関の実態について情報を収集していた。その結果、金融国会が始まる前には、長銀を筆頭に多くの銀行が巨額の不良債権を抱え破綻寸前の状態であることを把握していた。この年の3月に、いわゆる佐々波委員会が大手銀行に1兆8,000億円の公的資金を注入したが、不良債権という膿をため込んだままでいる限り、そんなものは単なる気休め以外の何物でもなかった。

 当時、私は独自に、旧長銀の大口問題債権リストを入手していた(図表1)。ここには、旧長銀が関連会社と称するペーパーカンパニーを使って不良債権の飛ばしを行っていたことや、わが国を代表する経営不振のゼネコン、不動産、ノンバンク、流通などに、旧長銀がどれほど貸し込んでいたかも記されている。そしてこのような、巨額の不良債権を抱え経営危機にある銀行が旧長銀だけでないことは、リストにあげられた大手企業名を一瞥するだけで、容易に想像できた。

 最近、的確な分析と問題解決の方向性について、専門家のみならず多くの国民が支持するエコノミストの木村剛氏が、(多くの銀行が貸し込み合いをしている)“大手30社”に対する貸倒引当金を積み増すべきだと主張している。その“大手30社”(本誌8月7日号25ページ)のリストと旧長銀のリストとの重なり合いに気づかれる方も多いと思う。つまり、多くの銀行が貸し込み合いによって身動きがとれない状況にあることが、問題企業を存続させ、不良債権の抜本処理を困難にしているのである。

 

やはり問題の根元は要注意先債権にある

 98年秋の金融国会は、与野党の枠を超えた政治主導によって金融システムに関するセーフティ・ネットが構築されたという点で、確かに意義深いものではあった。しかし、自民党守旧派の巻き返しによって早期健全化スキームが不良債権処理のさらなる先送り策に貶められ、民主党が提案した金融再生法でさえ運用の段階で換骨奪胎されてしまっては、金融国会の意義などもはやかけらも残っていない。

 民主党が提案した金融再生法と早期健全化法は、いずれも、厳格な資産査定と十分な引き当てを行う=間接償却を完全に終わらせることが大原則であった。この大原則は、商法第285条の4、すなわち、「…金銭債権ニ付取立不能ノ虞アルトキハ取立ツルコト能ハザル見込額ヲ控除スルコトヲ要ス」という規定を遵守せよということである。

 98年秋の金融国会以降の金融行政の失敗は、まさにこの大原則が守られなかったことから来ている。柳沢金融担当大臣は、間接償却は完了しており、直接償却が進まないことが問題だと主張しているが、今年3月期決算で東京三菱銀行が資産査定を厳格に行った結果不良債権が一気に5割も増えたことや、倒産したそごうやマイカルが要注意先に分類されていたことなどから見ても、柳沢金融担当大臣の論理は完全に破綻している。

 一時国有化された旧長銀のケースを見てみよう。柳沢金融再生委員長(当時)は、後に倒産することになるそごうのような問題企業向け不良債権でさえ、長銀が引き継ぐべき“適資産”であると判定した。このような問題企業満載の旧長銀を、冷徹な外資系投資ファンドが喜んで買うはずがない。結局、柳沢金融再生委員長は、2,400億円の公的資金や2,750億円の株式含み益に加え、瑕疵担保特約という金融再生法の趣旨に反するデタラメなお土産までつけて、旧長銀を10億円という破格値でリップルウッドに“贈呈”したのである。その後、旧長銀は新生銀行へと名前を変え、瑕疵担保特約をとことんまで利用している。すなわち、特約の行使期限が切れる前に問題企業をさっさと一掃するため、強引な貸しはがしを行って特約の履行を迫り、現時点で55件1,557億円の追銭を日本政府から巻き上げているのである。

 厳格な資産査定と十分な引き当てを課さない自民党版早期健全化法が施行されたことは、不良債権処理の先送りを決定づけたという意味で、長銀のケースよりもはるかに悪質だ。99年3月、柳沢金融再生委員長は、大手銀行に対し7兆4,500億円の公的資金を注入し、不良債権処理は完了したと宣言した。しかし、柳沢金融再生委員長が“健全銀行”だと太鼓判を押した大手銀行の中に、当時から経営危機が噂され、今なお生きるか死ぬかの瀬戸際にいる複数の銀行が存在することは、関係者なら誰でも知っている。厳格な資産査定と十分な引き当てを課していれば、それらの銀行は“過少資本の銀行”とならざるを得ないのであって、“健全銀行”として資本注入を受け得るはずもなく、株主・経営者の責任も厳格に追及されたはずだ。その物証となる内部資料は流出している。すでに民主党議員が国会でも取り上げたが、当時金融再生委員会事務局にいた人物が作成した“引受条件について”という内部資料によると、実質債務超過もしくは過少資本とされた銀行は一つや二つではない。

 小泉首相は、不良債権処理を公約に掲げている。しかし、その具体的内容たるや、主要行に対する検査回数を増やすことや、破綻懸念先以下の不良債権を2?3年以内にオフバランス化することなど、本当にやる気があるとは到底思えないものだ。

 そもそも、最大の問題は、そごうやマイカルのような、本来破綻懸念先以下に区分されなければならないはずの問題企業が、要注意先やもしくは正常先に区分されていることなのだ。図-1に示すとおり、破綻懸念先以下に対する債権が31.2兆円(19.4兆円+11.8兆円)であるのに対し、要注意先に対する債権でさえ109.6兆円もある。小泉首相は、問題を破綻懸念先以下に矮小化しているのである。これでは問題解決などおぼつかない。

 それだけではない。現在、整理回収機構(RCC:前身は中坊公平氏が活躍した住宅金融債権管理機構)の機能強化と称して、政府・与党では、RCCに不良債権を簿価で買い取らせることを検討している(図-2)。不良債権を簿価で買い取るということは、例えば、30円以下でしか売れないものを100円で買い取り、70円は国民の税金で穴埋めするということである。これは、RCCを不良債権の“掃きだめ”にすると同時に、不良債権を国民の懐に“飛ばして”しまうことと同じだ。また、誰も責任を問われることのない、“銀行救済のための公的資金の注入”でもある。この国家的な不良債権の飛ばしにより、政治家自らと金融当局、銀行、不良債務者の責任を不問に付し、すべて国民に尻拭いさせるというのが彼らの狙いなのだ。まさに、国民の負担で銀行と問題企業を保護するという、“護送船団行政の巧妙化・悪質化”以外の何物でもない。小泉首相がこれを強行するならば、“小泉構造改革”は死んだと言うほかない。

これが金融再生のための「ファイナルプラン」だ

 最後に、真の金融再生のために、私の考える“金融再生ファイナルプラン”をまとめておく。これは、民主党がこれまで一貫して主張してきたことでもある。私が言いたいことは、勇気を持って“基本に返る”、“原則に従う”、“王道を歩む”ということに尽きる。

1.  緊急一斉検査を実施し、厳格な資産査定と十分な引き当てを行わせる=間接償却を完了させる。その上で、銀行を存続可能な銀行(Good Bank)と存続不可能な銀行(Bad Bank)に区分する。

2.  債務超過であるなど存続不可能な銀行(Bad Bank)は特別公的管理(一時国有化)などの破綻処理に移行する。その際、不良債権はRCCに完全に分離する。

3.  過少資本であるが存続可能な銀行(Good Bank)には、株主・経営者等の責任を明確にした上で、公的資金による資本注入を実施する。

4.  RCCに分離した不良債権については、数年間かけて、法的整理などの手段によって回収を進めるか、もしくは時価で市場に売却する。

1〜3までのプロセスは半年間で完了させ、銀行の過少資本問題を解決する。もはや、一刻の猶予もない。国債価格の暴落というマーケットの反乱が起きる前に不良債権の抜本処理を断行し、銀行の過少資本問題を解決しなければ、金融仲介機能はいつまでたっても回復せず、健全な企業さえもが銀行の道連れにされるだろう。また、市場での競争に負けたはずの“ゾンビ企業”が恣意的な債権放棄によって延命されれば、過当競争を引き起こしてデフレを一層加速させるだろう。わが国の資本主義が危機を克服し、経済再生への軌道に復することができるかどうかは、まさに不良債権問題をどう解決するかにかかっているのである。