数の横暴を覆すのは世論の力

ー参議院選挙制度を巡ってー

2000年10月8日 徳島駅前にて街頭演説

   

仙谷 由人

 今国会で、来年7月の参議院議員選挙のやり方を巡って、自民党・公明党が急に制度を変えようと、今までの約束を無視して、妙ちきりんな制度を打ち出してきました。参議院の比例代表選挙に、非拘束名簿方式を取り入れるというものです。

 今まで、17年間やってきた比例代表選挙というのは、有権者のみなさん方に党名を書いていただくという制度です。

 今度、与党がやろうとしているのは「党名でも、個人の名前でもどちらでもOK」というものです。個人の名前を書いて貰う制度を導入することによって、評判の悪くなった自民党・公明党の票が少なくても、個人の票の積み上げで、その個人の票を、自民党・公明党の得票数に“横流し”できるということであります。

 そうしないと、連立与党が負ける。というのが彼らの思いのようであります。

 

許してはならないデタラメなやり方

 「なにが何でも次の参議院選挙は負けられない」と、与党にはこの思いが強いようです。「そのためには、ルールを変えてしまえ!」「野党に相談などしなくても、ルールを変えてしまえばいいんだ!」と、いわば、相撲取りが相撲を取っていて、土俵際まで押し込まれたときに、急遽「土俵を広げる」とか、「円の土俵を楕円形に変えてしまう」とか、こういうデタラメなことをやり始めているのと同じことです。

 私どもは、こんなことはいっさい許してはならないと思っています。

 

 13年間実権を握り続けてきたユーゴスラビアのミロシェビッチ政権が崩壊しました。この前大統領は、選挙直前の7月に憲法改正を行い、この9月の大統領選挙で、自分がもっと長く大統領を続けるために選挙制度を変えてしまいました。その結果、国民がこれに怒って、ミロシェビッチやめろという声がひどくなり、ついに、おととい倒れてしまいました。

 これと同じように、選挙のルールを変えなければ自分たちが負けるから、ルールを勝手に変える。こんなことは、民主主義のイロハの問題として、あってはならないことです。

 

自民党政権の危機

 戦後50余年、自民党はずっと政権を握ってきました。1993年の細川内閣が出来た時以外は、権力と政治を自分たちの思うままに動かしてきたのです。

 ところが2年前の参議院選挙、そして、前回の衆議院選挙、これらの票の出方をみますと、本当の意味で定数是正をやった場合には、自民党が既に過半数をとれないばかりか、自民・公明・保守、この三党が束になってかかっても、過半数はとれない時代になってきました。

 

市民の良識が政治を動かす

 これは当然です。徳島市は特に、第十堰の問題で住民投票をやってみましたら、55%の投票率で、90数%の反対票が出ました。徳島市民の多くの方々が選んだのは、「今、第十堰を多額の税金を使って、現堰を壊して可動堰に替えるなどということを急いでやる必要はないじゃないか。もっと、高齢者の生活や、あるいは我々の町をよくするために、税金を使って欲しい・・・」というものでした。

 ゼネコンと役人と自民党の政治家が、私達の税金を勝手に使い放題使って、裏側でリベートを自民党の政治家が受け取る、自然環境を破壊する、その結果、社会のモラルが低下して少年少女の心がゆがんでいく。さらには徳島県も徳島市も、そして国も借金だらけになって、先行きどうなるんだ、こんなことが許されていいのか!という、みなさん方の良識が今、政治を動かしているのです。

 自民党の族議員、そして亀井さんのように、公共事業を見直すといいながら、結局は、公共事業の利権を自分の手にする。自民党はこんなことばかりやっています。

 こういう、利権や権力争いに終始をして、国民、市民、有権者の皆さん方の思いを感じ取ろうとしない。こんなことはもう願い下げだというお気持ちが、皆さん方にも強いでしょう。

 しかし、自民党の“一度とった権力は、放さない”という、この執念もまた、すごいものです。

 野中さん、亀井さん、参議院の村上さん、この方々は権力だけは手放さない。権力を手放して、政権交代でも起こった日には、彼らの今までの悪行が、全部、明らかになります。もし、政権交代が起こって、民主党が政権をとれば、彼らの悪行、内容を全部調べ上げて皆さん方にはっきりとお見せすることが出来る。私はそう思っております。

 

またぞろ醜聞!?

 たとえば今度、昨日、一昨日あたりから、新聞やテレビで皆さん方の目に触れる、KSD中小企業経営者福祉事業団と称する財団法人。中小企業の経営者から、毎月2000円、年間24000円を集める。100万人会員を作っていますから、毎年240億円入る。そして、何をしてるかというと、経営者の方々が、ここに加入していれば、いわゆる労働災害を起こした時に(経営者の方々というのは、労働災害保険に入れませんから)このKSDがやっている任意の保険で、ちゃんと保険金が払われますよという制度を、労働省に食い込んで、事業を始めている。昔、オレンジ共済というのがありました。それと同じことを、官僚と、村上さんという参議院会長とがぐるになって、やってるんです。

 そのKSDが集めたお金が、正しく使われてない疑惑があるということで、おととい東京地検特別捜査部が140人の捜査員を動員して捜索をしました。あと一ヶ月位すれば、東京地検が一生懸命帳簿を読んで、この全貌が明らかになってくるでしょう。

 そしてKSD豊明会という任意団体を作って、そこに中小企業の経営者の方々が納めた保険料の一部、30数億円を毎年毎年補助金としてつぎ込む。そのお金は、結局自民党の代議士のところにばらまかれている。日常的に、自民党の代議士へ金をばらまくことによって、この事業はおかしいとか、問題があるとかいわれたときの、封じ込めのためにやっている。

 この頭目が、なんと、参議院議員会長、村上正邦この人であります。結局、なんのことはない、久世さんの問題よりも、ひとまわりもふたまわりも輪をかけたような問題が、またまた吹き出てくる。

 村上さんの選挙は98年7月でありました。あの選挙の時に村上正邦という人は自民党の名簿順位2位でした。村上さんは、このKSDに要求をして、9万9千人、約10万人の自民党員を作りました。9万9千人の自民党員というのは、皆さん方はご承知無いかも知れませんが、党費は、一人あたり4000円でありますから、約4億円ということになります。4億円の金を、このKSDに出させて、10万人の党員を作った。そして、名簿2位になった。要するに、自民党の名簿順位を、4億円で買ったということになるわけであります。

 久世さんは、確か5万人の名簿を出して、そのために、2億円を大京という、マンションの建設会社に頼んで出させた。ということが、明らかになっております。そのスキャンダルで久世さんという人は、金融再生委員長をやめざるを得なくなった。たった2〜3ヶ月前の話であります。

 

 こういうでたらめなことで、国民のなけなしの税金や保険料を食い物にする。こういう政治が、まだまだ続く。これを覆い隠したうえで、権力を維持するために、参議院の選挙の方法を変えようとしているのが、今国会であります。

 この、参議院の選挙制度についての問題は、今年の2月25日、参議院で、みんなで協議し、考えようということで始まりました。参議院議長を含めて、来年七月の選挙には抜本的な改革は間に合わないから、現行の制度で行う。しかる後に選挙制度、参議院の位置づけ、これを考えよう。という約束が出来たんです。

 

 自民党の議員が座長でありましたから、当然のことながら自民党も約束をした。議長も入ってその約束をした。ところが、3ヶ月前の衆議院選挙が終わり、自民党は大幅に議席を減らし、その上、中尾栄一建設大臣の逮捕(収賄)、久世金融再生委員長の辞任(大京から2億円もらっていたということを、記者会見で自白をしてやめざるを得なくなった)と、次々にスキャンダルが発覚してしまった。

 

本末転倒、笑止千万の実体

 久世さん(この人は少々人がいいのかも知れませんが)については、自民党に比例名簿の順位を上げても貰うために、犬も猫も幽霊も党員にした名簿を渡し、その党費(2億円)を大京から出して貰った、という本当のことを言ってしまった。

 さあ、自民党の中は蜂の巣をつついたような大騒ぎです。そして、自民党はこの種のやり方を反省するのならともかく、選挙制度が悪いと言い出し、今度の参議院選挙の選挙制度いじりに駆け込んだというのが、実体です。

 そしてこの問題が、明らかになってしまいましたから、与党は「野党と長々と協議する必要など無い」と言いだし、一挙に数の力に任せて押し切ってしまおうとしている訳です。

 それに対し、民主党、自由党、社民党、共産党いずれもが、「こんなルールを踏みにじる議会運営というのは許せない」そして、「非拘束名簿方式という参議院選挙制度は、17年前まで存在した、あの悪名高き全国区の選挙へ先祖帰りすることになる」ということを主張しております。

 

 

復活!全国区〜残酷区〜銭国区

 あのとき、どういうことが行われたか。

 一人の候補者が全国を走り回るわけでありますから、ひどいときには選挙が終わったとき、4人もの候補者が当選後死んでしまった。

 そして、5当4落といわれ、5億円使わないと当選できない。(それはそうでしょう)全国の選挙ですから、各県に一つずつ事務所を置いても(いくらかかりますか)5億円や10億円はすぐ飛ぶんです。ポスターを貼るだけでも、どのくらい手間暇がかかるのでしょうか、全国津津浦浦に、候補者が自分のポスターを貼ろうとすれば、貼る人に日当を払わなければいけない。日当を払わないで、やってくれる人を捜さなければいけない。探すだけでも費用がかかります。

 この全国区が、残酷区とか、銭国区とかいわれた理由です。「・・だからやめよう」と、当時の自民党が言い出したんではないか。

 そして、一概に悪いとは言いませんが、政治的な器量があるかないか、誠実さがあるかないか、政治家として伸びるかどうか、そのことに関係なしに、有名なタレントやアナウンサーが当選する。このことが、果たして日本の政治にとっていいのか、という問題がございます。

 有名なタレントさんが、すべての人が政治家として能力がないとは言いません。優秀な人もいるでしょう。しかし、ただ有名なだけで、ただテレビの電波に乗っているというだけで、もし当選する人がいたとしたら・・・そんな人が、定数の内の半分にでもなったらどうなるんですか。

 私は、この選挙制度は、いったん日本人が、「こんなひどい選挙はやめようよ、これはあまりにもひどすぎる」と、お金の問題から、有権者と議員の関係の問題からも、いわれていた制度です。それを理屈もなく、先ほど申し上げたように参議院議員全員の約束を踏みにじって、今持ち出してきた。これは許してはならない。

 それを、“野党が審議に出てこない”という、表面だけを取り上げて、そればかり言っている。これは、いかがなものかというのが我々の立場でございます。

 

世界から見た日本の民主主義

 今、日本の民主主義は、大きな分かれ道にさしかかっています。どこの国に行っても、あるいは霞ヶ関の官僚の方々ですらも、「日本は政権交代がない限り、まともな民主主義の国にはなれない」と、言い出しております。

 今度の衆議院選挙が終わってから、台湾とヨーロッパ(憲法調査会)へ行って参りました。外国の皆さん方が口をそろえて言うのは、「政権交代のない民主主義というのは、いかに偏ったもので、本物の民主主義ではない」ということです。

 

 日本はこれまで、アジアの中で民主主義の先進国だという風に思われてきました。しかし、もう既に韓国でも台湾でも政権交代が行われました。

 我々は、中国共産党の一党独裁の政治というものについては、懐疑の眼差しでみていると思います。ところが、翻って日本を考えてみれば、自民党の一党支配というのが、極めて長く続いております。実質的には、戦後50年以上、自民党の一党支配が続いている。

 その弊害に国民の皆さんも気づきはじめて、自民党の支持率は下がる一方。二年前から、ひたひたと自民党一党支配が崩れはじめ、次から次へと連立の相手を組み替え、今は、公明党と保守党の力を借りないと、自民党は政権を維持できない状況にまでなっています。

 そして、いよいよ次の参議院選挙では、公明党と保守党の力を借りても、政権が維持できなくなる。その見通しを、自民党の執行部でさえ持たざるを得なくなったというのが実状であります。

 

危機的状況どうする自民党!

 そんな状況の中、自民党は何をすべきか、「今まで、やってきたことを反省し、政策を変え、ゼネコンや銀行を優先して、国民の皆さん方にしわ寄せをする政治を変える」という風にするんだったら、まだ救いようがあります。

 しかしどうですか皆さん、彼らは反省をすること無く、選挙の制度を変えて、自分たちの政治権力、政権を放さない様にする方法を考える。これは、今、開発途上国で起こっている選挙の不正(投票箱を隠したり焼いたりする。投票数をごまかして発表する)とつながるやり方であります。

 日本では、そこまでいかないでも、選挙のルールを変えて、(今、定数が、1対6に広がったこの選挙制度をそのままにした上で、さらに、選挙の制度を変えて、少ない票しか取れなくても、多い議席を確保できる様な制度に)自分たちの政権維持のために有利に持っていこうとしている。そのステップとして、今度の参議院選挙の比例代表選挙を、非拘束名簿式にする。

 そして、その持ち出し方が、「約束は破るは、いっさいの協議はしないは」という、むちゃくちゃなやり方、これが今の与党自民党の実状でございます。

 

参議院そのものからきちんと議論しなければ

 私は、参議院というのは、抜本的に制度として考え、改めなければならないと思います。

 まず、参議院が、皆さん方にとって何をやっているのかわからない。衆議院のカーボンコピーと言われています。

 これをやめる方法は、まず、大臣を出すことをやめる。これが重要です。次に、衆議院が予算を中心に審議する議会であるとするならば、参議院は決算を中心に審議をするというようなことを考えなければならないのではないでしょうか。

 衆議院と同じ様に、政党の縦割りの中で同じ様な政党行動をするのであれば、参議院の存在価値はない。

 たとえば、地方を代表する人が議員になり、参議院を構成するというのも一つの考えです。ドイツでは、州代表が参議院議員を構成するという制度になっています。アメリカでは、上院議員が、各州から2名となっております。

 要するに、衆議院と参議院の性格を変えるということをしませんと、同じことをやるのでは、この時代、手間暇がかかってしょうがない。そして、この参議院の性格付けというのは、選挙制度と深く結びついているわけでございます。だから今度の比例代表のところだけを、拘束名簿式なのか、非拘束名簿式なのかといういじましい改正とか、改革などというのは、何の意味もない。

 今、参議院の選挙に必要なのは、その選挙を通じてどういう参議院を作るのかということが重要になのです。

 参議院は、そういう抜本的な改革を迫られていると思います。日本の民主主義をここで改めて、本物の民主主義にするために、もっと大胆に言えば、「参議院を無くする。一院制にする」ということまでも、視野に入れた方がいいのかもわかりません。

 

皆さん方にお願い

 21世紀、日本は、今の制度よりも、もっと国民主権的で、もっと民主的で、もっと人権が保障される、そういう国にならなければならない。

 ところが今、与党がやっていることは、一党独裁の、一党支配の夢を追い続けて、絶対に権力を放さない。そのためにいくら国民の非難を浴びようとも、いくら一方的であろうとも、とにかくやってしまうという、まさに、無理が通れば道理が引っ込むやくざ路線であります。

 

 どうぞ皆さん、今の政府、与党、そして、自民党・公明党・保守党のこのやり方、前言を翻し、約束を破り、ただ自らの政権を放したくないというところに執着した、このやり方について、よく監視をしていただきたい。よく見ていただきたい。そして、集中的な批判を政府与党にしてください。どうぞお願いいたします。